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テラミスティカの話
 日記

 テラミスティカを最近よく遊んでいる。といっても、まだ全種族はやっていないというくらい。
 このゲーム、とりあえず傑作といっていいと思う。ワーカープレイスメント以後に登場した重量級ゲームの流れの中で「ゲーマーが本当に求めていたもの」のひとつのかたちを、かなり体現できているのではないか。そんな風に思っている。
 ただじつのところ欠点も多い。そのへんについて、ちょっと思うことを書こうかなと。

 テラミスティカのゲームシステムを考えると、よくわからない。
 ワーカープレイスメントなのかというと、違う。ワーカーも出てこないしプレイスメントもしない。共通点は手番進行くらいだ。ただわたしは(勝手に)それっぽい流れと思っている。ゲーム史上、ワーカープレイスメントをいろいろいじったらワーカーを使わなくなってしまったやつ、という理解だ。いやワーカーが出てこないんだから、これは自分の勝手な思いこみでしかないのだけど。
 テラミスティカと同じようなシステムを持ったゲームにはもちろん『エクリプス』がある。共通点は個人ボードの使い方。ゲーム開始時に個人ボードに並べたコマを共通ボードに配置する。すると、コマの下に隠れていた収入アイコンが現れる。このシステムが、とてもいい。このゲームをゲームシステムで分類するとしたら、むしろこの個人ボードに名前をつけてあげるべきだろう。
 ゲームシステムというのは、というかシステムと名がつくあらゆるものは、効率化のために存在する。それまで高いコストをかけていたなにかについて、なんらかのシステムを導入することでコストが低下する。あるいは、そうして低コストになることではじめて実現できることも出てくる。ボードゲームの場合、ここでいうコストというのはプレイヤーの負荷のことだ。
 テラミスティカ(やエクリプス)の場合、個人ボードにそれがある。それまでは共通ボードのマップ上に置かれた開拓地コマを数えなければならなかった。この個人ボードというシステムがあることで、収入計算にかかるコストが低減された。そうすることで、マップボード上に建設した開拓地と収入を結びつけた複雑な収入を導入できたし、ひいては状況判断も簡単になった。
 なくてもテラミスティカというゲームは成立するのだけど、しかし、プレイヤーが受ける印象はまったく違うものになっていただろう。簡単な話のようだが、こういうのこそデザインだ。
 テラミスティカはワーカープレイスメントではない。しかし、以前の古いゲームシステムに退行したわけでもない。ワーカープレイスメントがワーカーを使わなくなったら、アクションポイントか、プエルトリコの役割選択になりそうなものだ。でもそうなっていない。かといってアクション選択に関する別のスマートなシステムが採用されているわけでもなく、ごった煮状態だ。もちろんそれでは雑然としたゲームになってしまうから、代わりになにかをやる必要がある。そのひとつが、収入計算を簡単にすることだった。
 他にもいろいろと、細かく気をつかっているゲームだと思う。どちらかというと、大発明1個の力というよりも全体の作り込みの完成度でプレイ感がよくなっているゲームだ。そのあたりがヒットの理由だろうと思う。

 そんな作り込みに含まれることでもあるけど、いわゆるインタラクションの話。
 このゲーム、インタラクションは小さめだ。他人を攻撃する機会はそれほどない。代わりに他人を助けることができるが、影響は小さめ。
 このことは、ゲームとしての評価を分けるだろう。いわゆる闘争が好きなゲーマーは受け入れないと思う。正直な話、わたしもそう思うことはある。
 だが、近年の重量級ゲームにとって、インタラクションは小さめの方がいい。そんな、なんとなく確立されつつあるセオリーみたいなものがあると思う。テラミスティカのインタラクションの小ささ、特にネガティブなインタラクションの少なさは、まさにそれこそが求めていたものだった。そんな風に思う。またそのことでジレンマを減らし、プレイヤーが感じるストレスを減らし、総合的なプレイ感のよさにつながってもいる。
エクリプス』のインタラクションが強すぎたことも、そんな感想の一因にはある。もったいない感があった。あれがいいんだという気もするけど。
 長時間かかるゲームでインタラクションが強いと、途中で脱落するプレイヤーが発生してしまう。そのプレイヤーは、ゲームが終わるまで勝てないゲームにつきあわなければならない。それを回避するためには、長時間ゲームであるほどインタラクションを小さくするしかない。
 そんなところも「求めていたもの」のひとつの要素だった。じつのところ、この条件を満たすゲームが意外なほど少ないのだ。
 ただそのことが欠点にもなっているのだけど、それは後で書く。

 プレイヤーボードの個性は、このゲーム最大の特徴といえるだろう。種族が14も入っていて、それらが全部、まったく違う性能を持っている。
 なにしろ複雑なゲームなので、使う種族によってぜんぜん手順が変わってくる。神殿を建てるのか、いつ砦を建てるのか。そういう探索がこのゲームのひとつの楽しみだ。
 そういえばドミニオンが出た当初、そんな話題があったなあと思い出す。ウェブ上の攻略記事への反発があったのだ。それを捜すのが楽しいのに、読んじゃったら楽しみがなくなるじゃないかと。わからないでもない。まあドミニオンに関しては、じっさいにはそんなことはなかった。カードが増えて探索しきれないことも大きいが、攻略法を知った上でゲーム展開に対応するプレイヤーの力が求められるということが見えてきたりもした。
 でもテラミスティカの場合は、怪しいかもしれない。なにしろドミニオン以上にインタラクションが小さい。
 当然、その上での、ゲーム開始時の乱数やインタラクションによる揺らぎはある。あるのだが、種族の性能差を埋められる強さがあるのかどうか。このゲーム、やればやるほど種族の性能差が見えてくる。たぶん、上級者同士の本気の対戦では選ばれないだろう種族が、すでにある。
 なにしろ種族ボードは、1ゲームを通じて変わらない。ドミニオンの場合はけっきょく、強い戦略があるのなら全員がそれをやれる。けっきょく全員に勝ち目がある(1番手が極端に有利なサプライもあるけど)。でもテラミスティカはそうじゃない。テラミスティカの「ゲームバランス」は、種族の強弱のバランスのこと。正しいゲームバランスのためには、勝てない種族はあってはならないということだ。
 まだわかっていないプレイヤー同士ならば問題ない(そしてほとんどの場合がそうだ)。でも、種族の使い方を憶えたプレイヤー同士では、一番強い種族を担当したプレイヤーが勝つゲームになってしまう可能性がある。
 具体的にいうと、そうならないための条件は2つ。
 ひとつは、インタラクションやゲームごとの乱数による得点の揺らぎが種族の性能差を上回ること。例えば仮に巨人が110点、ダークリングが130点だとすると、差は20点。ラウンドタイルの乱数やインタラクションで20点が埋まるのかといえば、埋まると思う。ただし、性能差をあらかじめ意識できている前提が必要だろう。さらにそこから研究が進んで180点の種族が出てきたら、さすがに埋めるのは難しくなってくると思う。
 もうひとつは、ゲーム中の選択で勝敗が変わりうること。インタラクションも含めてだけど、開始時の乱数でだいたいの終了得点が確定するようになるのなら怪しい。開始時にしか乱数がなく、ゲーム中のインタラクションも小さいゲームだから、理屈上この危険が強いのだ。危険なゲームデザインだとはいえると思う。
 テラミスティカがこの2つの条件を満たすのかどうかというと、わからないが危惧はちょっとある。

 もう一つ、ここで、ゲームの評価に関する問題を再度。
 インタラクションが小さく、そのことを評価しないゲーマーがいるだろうとはさっき書いた。これは本当は、インタラクションの絶対値の話ではなくて。登場する各要素がゲームを成立させるために必要なのかどうか、ということだ。
 複雑な状況を渡され効率のいい動きを考える、テラミスティカに要求されるこの思考には、多くの部分で他者が必要ない。であればその部分は、勝敗を決めるためのゲームにとって無駄ともいえる。
 ゲームでないとしたら、パズルだろう。この問題のわかりやすい例は『フィレンツェの匠』だ。あのゲームでは、個人ボードに建物を建てていく。建物はテトリスのようにいろいろなかたちがあり、うまく置かないと無駄なマスができてしまう。しかし、一番いい配置を憶えてしまったら、もはやそのとおりに置くだけだ。あのパズルは明らかに、ゲームにとって不要だった(おもしろいゲームなんだけど)。
 テラミスティカの複雑さは、ひょっとしたらあれと同じなのかもしれない。そしてそこに依っているゲームだ。エレガントさを重視するなら、評価できないというしかない。
 じっさい……。去年のエッセンのゲームの中で『カッラーラ』を遊んだときに感じた安心感は、なにかすごく印象的だった。一番遊んでいるのはテラミスティカだけど、ボードゲームってやっぱりすげーと思ったのはカッラーラのほうだ。
 もちろん、そのパズルがおもしろいんだといってしまえばそのとおり。なにが悪いという話になる。

 そんなわけで、いくつか思うところがあったりもするけど。
 いやじっさいには、まだまだ充分楽しんでるわけです。
 インタラクション弱い弱いって書いてるけど、じつはけっこう感覚より強かったりするし。どの土地を開拓するかの選択で攻撃できたり、攻撃にならなくても「助けない」ことはできたりする。この要素の影響はデザインで薄められているのだけど、それでもけっこう強かったりする。
 なのでそのへんまだわかってないところは多い。
 くりかえすけど傑作だと思う。自分にとってはまだまだ遊べる。


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テラミスティカの話を