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マリア様がみてる パラソルをさして
 読書

マリア様がみてる パラソルをさして
今野緒雪 コバルト文庫

2002.7.21 てらしま

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 キャラクターものなのだから登場人物が好きで読んでいるということになる。他の部分が好きだということになると例えば同性愛ものが好きだとか学園モノがとかそういうことになってしまうわけで、それは少し違う。
 登場人物の中で誰が好きかといえば、私の場合は明確に主人公だ。
 成績は平均点、容姿も抜群というわけではない。ともすればクラスの中に埋もれていそうな普通の生徒である。性格は明るく脳天気。自分がなにも特別なものを持っていないと自覚していて、ときにはそのせいでコンプレックスを抱いたりもするが、しかし実のところ、真に誰もに好かれているのは彼女なのだ。なにも特別ではないが、当たり前のことを当たり前にできる。これほど優秀なキャラクターは他にいないと思う。
 普段は一般市民として生活しているが実は悪の秘密結社と戦うスーパーヒーロー、という構図と同じだろう。読者だけがすべてを知っている。少し違うのは彼女自身が自分のスーパーパワーに気づいていないところだが、けっきょく、少女小説でも少年漫画でも、我々読者を惹きこむ要素に違いはないということか。
 シリーズの読者の中に、この主人公を信用していない人はいないんじゃないかと思う。いやそれどころか、この小説の世界に悪意を持った人間がいると思っている人さえいないだろう。登場するキャラクターは全員がいい人。ただときどき、誤解やすれ違いがあるだけだ。
 悪意のない、性善説の世界である。だが、だから理想郷かといえばそれが微妙にそうでもないのがいいところ。
 今回はこれまでのシリーズとは違い、勢いにまかせてえいやっと書かれたような印象がある。とりとめもなく次々といろいろなことが起こり、初登場の人が何人も現れる。この人たちに関しては少し消化不良かもしれないが、その分主人公の悩みとそれを乗り越える様子が強調されて描かれる。
 結果、浮かび上がってくるのは主人公が持つ魅力だ。どこをとっても普通の平均的少女だが、だからこそ誰も彼女のことを嫌う人はいない。なにしろ読者もそう思っているわけで、これは非常に説得力のあるスーパーパワーだ。放射能グモに噛まれる必要も、身体中の骨格を超合金と入れ替えられる必要も彼女にはない。
 だから、極めてふつーのことをしている場面が楽しくて仕方ない。恩を受けたお礼にクッキーを持っていったら、「おもたせだけど」一緒に食べましょうということになったとか、制服にツユが飛ぶのを気にしながらラーメンを食べたとか、そういう場面が強く印象に残る。
 もしこのシリーズを読んでなんとも思わない人がいたとしたら、その人はきっと、この主人公と同じ能力を備えているんじゃないかと思った。たぶん、本当に幸せなのはそういう人なのだろうけど。


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