2006ドイツW杯 準々決勝
ブラジル 0−1 フランス
ブラジルというのは、基本的に世界最強のテクニックを持っている。だから、苦労しなくてもたいていの相手には勝ててしまうんじゃないかと思う。
今大会のブラジルはまさにそれだった。予選も含めてここまで、危機らしい危機に出会っていない。
だが、だからこそ、ブラジルの優勝はないとはじめからいっている人たちがいた。
そういう人たちだって、もちろん、ブラジルの最強を疑っていたわけではない。ワールドカップの得体のしれないセオリーが、予言に理由を与えていたのだ。
予選や1次リーグで苦労してきたときのブラジルは強い。だが楽勝できたブラジルは、なぜかどこかでこける。そういうジンクスが、たしかにある。
たぶん最初に書いた、苦労しなくても勝てちゃうというところが問題なのだろう。攻撃をしつづけるだけで勝てちゃうから、本当の危険をしのぐ戦いかたが、チームとして身につかない。
わたしの印象ではフランスは大したチームではなかったのだが、決勝トーナメントに入ってから別物になってしまった。それでもブラジルならポゼッションで圧倒できそうな気がしていたのだが、そうはならなかった。
互いに決め手を欠く感じの試合展開になった。
で、そうなると「試合を決める」選手の存在が重要になってくる。
ブラジルにだって、もちろんそれはいる。それどころか、並のチームなら、どの一人が入っても絶対的な選手になりうる。
だが、こういうときに重要なのは一人の力なのである。チームを背負っている一人と、相手チームで同じ立場にいる一人の戦いだ。
つまり、ロナウジーニョとジダンである。
わたしは実は、ジダンという選手が好きではなかった。たしかにすごい選手だが、常にすごいから驚きがない。たとえ力で劣っているとしても、突然すごいことをする驚きを持った選手には、パーフェクトな選手よりも有用な瞬間があると思う。
ジダンはパーフェクトな選手だった。だから、それに頼りきってしまったフランスは力負けすれば勝てない。そう思っていたのだ。
だが。この大会のジダンはなにかが違う。歳の功だろうか。動きは落ちているのだが、しかし、決定的な瞬間になにかをする選手になっている。テクニックだけではなく、流れを見て、要所をおさえて試合を支配できる人になっている。
もっと端的にいえば、顔つきに風格がある。
ブラジルは、ロナウジーニョ対ジダンという試合展開になってしまったことが間違いだった。もっと積極的に、ポゼッションにこだわることもできたんじゃないかと思う。だがやはり、危機を経験してこなかったチームには、そういう微妙すぎる流れの機微は感じとれなかったのではないかという気がする。
対してベテランぞろいのフランスは、こういう相手に勝つためになにをすればいいかを知っていた。それに、ジダンがいた。
もちろん本当は、そんなあいまいな話ではないだろうけど。観客としては、そういう物語をたしかに感じる試合だったのだ。ジダンのすばらしいプレイが、試合の主人公の座を勝ち得ていた。
さて、ともあれ、おもしろくなっちゃったワールドカップである。個人的には、ここまできたらポルトガルを推したいが、本命はドイツ。しかし残り4チームすべてに可能性があるなあ。