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ラジオガール・ウィズ・ジャミング
 読書

ラジオガール・ウィズ・ジャミング
深山森 電撃文庫

2006.07.24 21:01 てらしま

 すげーおもしろそうなタイトル。タイトルだけで作品のテーマやら舞台やらが想像できるし、しかも活劇が期待できるじゃないか。まあもちろん、新人の作品に期待をかけすぎなのはわかっているけれど。
 なにやら大きな戦争が終わって、廃墟の街にようやく復興が芽吹き始めたころ、という設定である。もちろんだ。ラジオガールなんだから。
 異世界の話ではあるんだが、それでもやっぱりそういうもんだろう。イメージの中ではやっぱり、そういう時代のものだ。
 そして、ラジオにはなんとなく、聞く者すべてにわけへだてなく希望を与えるうんぬんというイメージがある。戦中でもどこか活き活きとして見えたり、あるいは焦土からがばりと立ちあがろうとしていたり、そんな時代の、なにやらいまから見ればまぶしいようなロマンが染みついている。そういう、イメージの世界である。
 ちょっと余談だけど。そんなラジオに比べて、いまのインターネットのイメージの暗さはなんなんだろう。プッシュ型とプル型の違いなのか、これ以上ないほど平和な時代に生まれてしまったことが悪かったのか。でもたしかに、実感として、インターネットはどこか精神をすりへらされているような気がするけど、ラジオには疲れを癒す力があるかもしれない。
 ところが、この作品の世界では、戦争が終わったいまも厳しい情報統制がしかれているのである。ラジオ放送は禁止なのだ。
 そんな中で、人々に銀貨型のラジオを配り、毎夜軍と追いかけっこをしながらアンテナを設置して放送をしているのが主人公。
 という話だ。おもしろそうだよなあ。

 冒頭はおもしろかった。はじめの50ページくらいだろうか。主人公が元気よく夜空を飛び回る怪人をやってるあいだはいいんである。
 しかし、これもアレだ。わたしがきらいな「泣く主人公」で。
 いやきらいったって別に泣いたからもう読まないわけじゃないし、泣いたっておもしろいものはおもしろいけどさ。
 キャラクターを意地でも立たせることが、できないから泣いてしまったわけで。泣いたって読者は助けてくれないのだ。
 キャラクターが立たないとか、多すぎとかかぶるとか、話の構成がうまくないとか、つまりそういうことだ。ライトノベルの新人らしい、ネタはよかったが書ききれなかった話なのである。

 しかも、それに加えて、この甘ったるい絵。いや絵自体はうまいし、決して嫌いじゃないけど。
 キャラクター性を忘れて感情を昂ぶらせてしまい、結果世界観を壊す、あるいは、うっかり活劇を忘れている、そういう場面ばかり強調してしまう絵なのである。この小説の弱点ばかりを強調してしまっているのである。
 せっかくおもしろそうなんだから弱点に目をつむって読み進めたくても、絵に思いださせられてしまうのだ。なんというか、組み合わせが実に悪い。他の本で書いてほしかったなあ。
 
 でも、それでも。
 完璧な構成で、完成度を高めるためにスケールを削るだけ削ってデビューしてきた小説よりは、ずっと好感が持てる。しかもちかごろは、そういう小説のほうが大賞をとるわけだけれど。
 キャラクターは多すぎるくらいのほうが楽しいし、世界観なんてどこか破綻してないとつまらない。そんなことを思ってみたりもする。
 魅力的な世界観に、ネタに、魅力的になりえたキャラクター。話のイメージだけを見れば、すばらしい。そういうイメージの力こそ芸術家の力だろうし、読者であるわたしたちが求めてるものなのであって、これはまだそのイメージをほとんどかたちにできていない話だったわけだけど、そういう技術はあとからでもいいじゃないか。
 と思う。まあネタがもったいなかったと思えば残念だけど。
 これ、続編は出るのかな。出るのなら、ちょっと追ってみたい作家になるかもしれない。
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