2006ドイツW杯 準々決勝
イングランド 0−0 ポルトガル
延長0−0
PK1−3
ワールドカップもここまでくると、負傷者を抱えていないチームはない。ほんとに、サッカーって人道的にどうなんだろうとか心配になったりもするくらい。加えて、疲労もカードも溜まっている。もはや、チームの本来の姿を保つことなどできないのである。
そういう歪みが、極大点を迎えたのがこの試合。
デコのいないポルトガルと、オーウェンの離脱でチームの形がなくなっているイングランド。どちらも、もはや極限状態なのだ。
それでもイングランドには、史上最強の飛び道具がある。ここまでのほとんどの試合を、ベッカムの足一つで勝ってきたのがイングランドだ。
フォワードはどう考えても必要なレベルに達していない。中盤も、ここまで勝ち上がってきた他のチームと比べると、テクニックの面で一回り負けている。得点につながるまともな形がない。すでに崩壊しているチームである。
チームにできることは引いて守ることだけ。
だが、それでも。ベッカムのフリーキックがサイドネットに飛んでしまえば、いつでもどんな相手からでも得点をとれる。
そういうあんまりな勝ちかたをしてきたチームが、しかし、どうやら負傷のためにベッカムを下げることになってしまった。
そしてさらに。ルーニーが、相手選手に手をあげたうえ審判への抗議で一発レッド。
オーウェンの負傷で、やむなく1トップとして置いていたのがルーニー。クラウチを出すよりは守備的な選手を増やしたほうがいい、それは理解できる。つまり、イングランドにはもはや駒が一つも残っていない。ルーニーは、正真正銘の、最後にただ一人残ったフォワードだった。
ルーニーが唯一無二の選手だったわけではない。ただ、いまのイングランドには代えがひとりもいなかった。退場なんかしていいわけがないのに。
本当に、こんなことがあっていいのだろうか。ワールドカップの舞台で、チームが崩壊寸前まで落ちているときに、本気で代えのいない選手が、余計なレッドカードで退場だ。自覚が足りないとしかいいようがない。
これで、得点の可能性は限りなくゼロに近づいたのだ。
対するポルトガル。ここまでの試合で真の中心だったのはデコだった。中盤でボールをふりわけ、自分自身も走り、恐ろしく個性的なチームメイトたちの歯車を合わせていた。
それが、前の試合のひどい笛による累積警告で、いない。
マニシェも、フィーゴも、ミゲルも、クリスティアーノ・ロナウドも、本当にいい選手だ。しかし、そこはやはりポルトガル。イングランド以上に本質的な問題で、フォワードがいないのである。
スーパードリブルは苦もなく見せるが、スーパーゴールをやれないチーム。ボールを持つことはいくらでもできるが、9人で引いて守るイングランドを相手に、駒落ちでは得点できない。
可能性というか、こういう試合を決定する格を持っていたのは、もちろんフィーゴ。だが、さすがにこの歳で、120分間の試合はできない。後半で下がってしまった。
こちらも、得点の可能性が限りなく低くなってしまった。
ワールドカップらしいといえば、これほどワールドカップらしい試合もない。
基本的にチームの形がないイングランドに、勝つ資格はなかった。それはそうなのだが、PK戦になった以上、勝ってしまってもおかしくはなかった。
それに、ここまでだって、勝つ資格がないのに飛び道具で勝ちあがってきたのがイングランドである。
が、最終的には、テクニックの差でポルトガルの勝ち。
どう見ても読みやすいキックしか蹴れないイングランドのキッカーは、相手キーパーに、すべてのキックを読まれていた。目の前の相手をいかに騙すか、そのことばかりを考えてきたドリブラー集団ポルトガルは、すべてのキックで相手キーパーの逆をついた。
いやもう、ほんとに最低の試合だった。だがやはり強いほうが勝ったとはいえる。
この前のオランダ−ポルトガルも別の意味で最低だったが、けっきょく、ポルトガルは、かろうじてだが、相手を上回る自分たちの力で勝ってきたのだ。
ここまでひどい試合が連発するのもワールドカップだから。その洗礼を一身に受ける格好になってしまっているポルトガルだが、それでも、ポルトガルは勝利にあたいするチームだ。だから勝った。勝利にあたいしないのに飛び道具で勝ってきたイングランドもおもしろかったが、このへんが潮時だったかねー。