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学校の階段
 読書

学校の階段
櫂末高彰 ファミ通文庫

2006.08.14 21:16 てらしま

amazonamazon
 わりとタイトルで引いてたりしたんだけど、読んでみると、おもしろかった。基本的にスポーツが好きなわたしである。自分ではやらなくても、見るのが好きだし、いろんなウンチクを知るのが好きなのだ。
 けっこう素直なスポ根の話である。「階段レース」というスポーツに青春をささげる少年少女のお話だ。
 というか。
 はっきり書いてしまえば、これはパルクール小説である。といったほうがいい。それも、「移動芸術」とかいわない、トリック決めたりしない硬派な奴。
 もっとも、微妙に違うところも多く、パルクールを意識して書かれたものなのかどうかはよくわからない。
 学校の敷地内で、特に階段をメインに、いかに速く移動できるかを競う。そういうスポーツの、小説だ。
 映画『ヤマカシ』で有名になったアレだ。
 いっておくがこれは、ぜんぜんトンデモナイ設定ではない。フランスにはこれをまじめにプレイしている選手たちがいるし、その輪も広がりつつある。日本にもプレイヤーはいる。
 ただ、まあ、やっぱりいろいろと問題もあるようだけど。でも、その魅力は見ればすぐにわかるではないか。
 誰だって、ああいうことをやってみたいと一度は思う。
 学校で、部活動としてやるという設定には飛躍があれど、スポーツそれ自体としてはまったくまっとうなものである。
 あるいは、少なくとも、これを読んでそういう意見が変わったりはしなかった。

 フランスのパルクール自体も、けっこう周囲の人々からは迷惑がられているらしい。そりゃそうだ。普通に人が歩いている道路やら、時には人のうちの庭やらを跳びまわるのだから。マナーを守るプレイヤーもいるだろうが、そうでないプレイヤーもいる。
 それにやはり、本人は充分に安全に留意しているつもりでも、いや実際、そのために身体を鍛えて集中して競技にとりくんでいるわけだから、ひょっとしたら普通に歩いてる子供のほうがよほど危険かもしれないわけだが、やはり、ハタから見れば危険に見えてしまう。しかも街の中でやる人たちもいるわけだし。
 この小説の場合は、それを学校でやる。街中よりはいくぶんやりやすい舞台とはいえ、やはり、迷惑がられるのは当然だろう。
 しかし、これがスポーツとしての魅力をもっている以上、プレイヤーは必ずいる。読んでいてそう思えるわけである。
 もうなんつーかね。
「よくぞこのネタをみつけてきた!」
 である。
 街中でやるよりも校内のほうが安全だし、なによりイメージしやすい。説明がなくても、学校の廊下で鬼ごっこをやったことのない奴はそうそういない。そういう記憶をひっぱりだせば、それだけですぐにイメージできる。楽しそうだと思えるではないか。
 校舎にあるさまざまなものを、とにかく最大限に利用して走り回る競技だ。そのためには、校内のさまざまな地形を把握しておかなければならない。そこで階段部は、階段を一生懸命掃除したりする。
 床に、普段は気づかないような凹みがあったとか。そんな話が出てきたりする。
 たしかに、三年間も同じ校舎に閉じこめられる経験をしてきた我々は、多かれ少なかれそういう記憶をもっている。あそこの廊下の床は軋んでいたとか、あそこの壁には穴があいていたとか、そういう、あとになってみればどうでもいいようなこまかいことまで、考えていたのが学生時代だ。
 こういう経験は、運動部でも文化部でも変わりなくある。
 この「階段レース」というスポーツはつまり、運動の経験がない人にもイメージできてしまう題材なんではないか。
 いやほんとに、よく見つけてきた。
 ネタの力はすばらしいので、あとは直球を投げるだけ。話はほんとに直球の、スポ根をやってみせればいい(1巻はそうだったが、2巻は少し他の話が入る)。
 もっとも、競技そのものの描写に説得力がなければ台無しだが、そのあたりも見事に描かれている。というか、ちゃんとスポーツが好きな人の視点で書いてあるなあと思う。

 スポーツはおもしろいなというそのことを、これほどイメージしやすい題材はないんじゃないかと思う。実際にスポーツをやったことがなくても、廊下を走り回った経験なら誰にだってあるわけだから。
 完成度そのものをみても低くないが、わたし個人の好みでいっても好きな小説だ。
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学校の階段を