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狼と香辛料Ⅱ
 読書

狼と香辛料Ⅱ
支倉凍砂 電撃文庫

2006.06.19 02:18 てらしま

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 ブ厚い上に字が小さい……。こりゃまたがんばったものである。新人賞応募用の枚数制限から解き放たれて、書きたいことを全部つめこんだという気迫を感じる。
 この厚さで前回のままの文章だったら読めなかっただろうが、そこはたぶん編集者が緻密にチェックしたのだろう、かなり読みやすくなった。
 もっとも、文章力という面ではまだ足りない部分もある。ヒロインを描写するたびに主人公視点で「かわいい」と書いてしまうのはまったくの逆効果だし、ときどき、妙に描写がくどくなったり急ぎすぎたりする部分もある。読みやすいと思っていれば不意に、失敗といっていい文章が現れてしまう。たぶん編集者の目がゆき届かない箇所が残ってるんだろうなあと、想像できてしまうのだ。
 が、物語はおもしろくなっているし、もう尽きたんじゃないかと思っていたネタも、また新しいものを提示できている。世界観の緻密さはあいかわらず楽しいし、予想したよりもずっといい続編だった。

 無法をものともしない商人たちの世界と、その中にもそれなりの形で存在するヒューマニズム、というテーマみたいなものが、はっきりしてきた。物語に骨組みができて、これではっきりと新人賞レベルから脱却したと感じる。
 個人的には、この人はもう少し時間がかかると思っていた。さすがは電撃文庫(の編集者)というところだろう。レーベルを構成するプロトコルを高い完成度で持っている、この実力は大したものである。
 ただし、そこには危険もある。作家が自分の知識やスキルを殺してしまう可能性があるのだ。現にそういう作家を、何人も見てきたではないか。
 これはむしろ、自分自身の世界観をはっきりと持っていなかった作家の責任というべきことかもしれない。わたしは、支倉凍砂はそれが足りないんじゃないかという印象を、1巻で抱いていたのだ。
 だが、2巻でこの厚さを書いてみせたことで、そんなわたしの予想を超えてきたんである。シリーズを読む読者にとっては、これはうれしい瞬間なのだ。

 もちろん、まだ不安もある。
 このシリーズ、根本的な問題は、物語の骨格にヒロイン狼が絡む必要がなさそうなところ。これは1巻でもそうだった。
 主人公は自分ひとりでも商売の世界で動き回ることができるし、そこがおもしろいところではあるのだが、それなのにもっとも描写が多いのはヒロインの挙動に関する場面なのだ。このヒロインは別に商売のことを知っているわけでもなく、また主人公を手助けできているようにも見えない。
 本当にこのシリーズを続ける意味があるのか。ということはどうしても考えてしまうわけだが。

 しばらく電撃文庫で文章を鍛えられれば、そのうちライトノベルじゃないものを書くようになりそうな人だ。ゲームの世界ではない、本物のファンタジーを書ける作家である。注目してみる気になった。

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