遊星ゲームズ
FrontPage | RSS


ひみつの階段
 読書

ひみつの階段
紺野キタ ポプラ社POPLARコミックス

2004.6.19 てらしま

amazon
 ばんぶーぱいんで紹介されていて、ちと気になったので買った。そうしたところが、見事にハマったんである。青梅くんありがとう。
 寄宿舎のある女子校が舞台の、ほぼ女の子しか出てこない話だ。校舎も寄宿舎もかなり旧い建物で、霊のようなものやなにやらがいろいろ棲んでいる。
 が、それは実は霊ではなく、過去の生徒たちの思い出がそこかしこに残っているのだ、というまあファンタジーである。
 連作短編というような形式で、時間もいったりきたりするし、主人公はいるが出てこない話もある。こういう話には合った形式だと思う。
 プロットだけ見ればなにやらブラッドベリあたりが書きそうなSFファンタジーと見えないでもない。わたしがハマるものなんてきまってそんなものだ。
 まず、とりあえず絵がいいんである。同人上がりらしいのだが、こういう人はとにかくひたすら絵を練習してきてるので、とてもきれいな絵を描く。絵のきれいさでいえばプロより同人作家の方がきれいなのが最近のあたりまえになっていると思う。ただもちろん、きれいな絵がマンガ表現として正しいかといえばそうでもないわけで、この『ひみつの階段』でも、ちょっとわかりにくいところがあったり、書き文字の使い方に疑問があったりはするのだが。
 知人に読ませたところ「この絵がダメ」といわれた。それはそういうところなのだろう。
 この人はやはり同人作家らしく短編中心に書いてきている様子だが、現在手に入る本の中に長編が一つある。
Cottonというのがそれなのだが、こちらはやはり、短編のおもしろさと比べるとイマイチ。逆に短編集
夜の童話などはこれももう『ひみつの階段』と並ぶわたしのお気に入りだ。この表現はストーリーを語るには向かないのかもしれない。というより、こぎれいな絵それ自体が長編に向かないという気も、最近の同人上がり作家連中の作品を見回していて思う。
 寄宿舎や校舎に染みついた少女たちの思い出には悪意がまったくなく、全編とおして生ぬるい世界が描かれていくわけで、わたしはこういうのも好きだ。というか「絵が苦手」とかでなければ、けっきょくこういうのが嫌いな人はいないだろうと思う。少しファンタジーを加えた『マリア様がみてる』だと思ってみると、そういえばおもしろがってマリみてのとなりにこの本を置いていた本屋があったなあ。
 いろいろな時間が混じり合う女子校の不思議な空間は異常なのだが心地よく、しかも建物に染みた思い出には少女時代しか存在しないというあたりの設定はスマッシュヒットだ。そして最終話でそれが外の世界と繋がる、これも見事。やっぱりこれもSFだね。いいぞー。


.コメント

ひみつの階段を