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われらの有人宇宙船
 読書

われらの有人宇宙船
松浦晋也 裳華房ポピュラーサイエンス

2003.10.2 てらしま

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 近ごろ、日本のSF関連作品の中に富士山型をした宇宙船を見かけたことはないだろうか。例えば、アニメ『宇宙のステルヴィア』に登場した宇宙往還旅客機「フジヤマ」である。
 最初の発表がSF大会。そのときは「まだ秘密」ということだったのだが、その講演が大変に興味深かったこともあり、SF関係の小説や、コミック、アニメの世界に大きな影響を与えたプロジェクトである。それが、本書の題材「ふじ」構想だ。
 まずは公式ページを見てください。これも非常に面白い。
 なんかいいのである。熱意が感じられるし、日本人としてはやはり「アメリカのマネではない」というところには魅力を感じてしまう。いかにも日本らしい、プロジェクトXに出てきそうな、中島みゆきが似合いそうな計画ではないか。そういうのに、私たちは惹かれてしまうようにできている。
 最初に創作を生業とする人たちが注目したというのも、わかる気がする。なにしろ発想は『ロケットガール』(野尻抱介、富士見ファンタジア文庫)と同じなのだ。
 説明をしていなかった。
 まず、一番最初に「宇宙へ行きたい」という本能がある。あえて人間の本能と断定させてもらう。しかし、現状では厳しい訓練を経ていない一般人が宇宙へ行くことは不可能である。それに、金がかかりすぎる。
 それはなぜか。そりゃあそうなのだ。今有人で宇宙に行くことができる宇宙機といえばスペースシャトルだが、あれはいかにもでかい。
 宇宙へ行くだけのことならば、本当にあんな大仰なものを飛ばす必要があるのか?
 誰だか忘れたが、宇宙開発の歴史上重要な人物がこんなことをいったことがあるそうだ。「例えば人ひとりが座れる椅子の下にロケットをつければ、それで宇宙に行くことができる」。つまり、現在のロケットの技術をもってすれば、宇宙へ行くこと自体は難しくない。
 そこで、今すぐに実現できる技術だけを使って有人で宇宙へ行くためにはどれだけ小さなシステムでいいのだろうか、ということを考えたのが、宇宙開発事業団の野田篤司だ。日本製ロケットであるH2Aを使い、人が乗れる使い捨てのカプセル型宇宙船を打ち上げるというのである。
 スペースシャトルは宇宙を往還し再利用されることを前提に作られた。だからあんなに大きな翼が必要だ。再突入して地上まで降りてくるには、空力を使った翼が必要だから。しかし、大きな翼は打ち上げには邪魔な重量でしかない。
 実は今の技術では、すべてを使い捨てにした方が安上がりなんではないか。
 最小限の大きさの、使い捨てカプセル型宇宙船。それが結論である。
 この計画が面白いのは、価値観を覆す思考実験だからである。
「ふじ」が実現するかどうかはわからない。宇宙開発を毛嫌いしている人たちはかなり多いようだ。「それより海を研究しろ」なんて、的はずれな指摘がまかり通ってしまったりもする。「宇宙開発なんてただの無駄遣いだよ」と斜に構えてみるのがかっこいいという風潮が、どこかにある気もする。
 不景気でもある。しかも人の命がかかった「有人」だ。だから、ちょっと実現は難しいかもしれないと思う。
 しかし「ふじ」構想は宇宙開発に疑問を投げかけた。本当にスペースシャトルでいいのか? 他にもさまざまな宇宙往還システムの構想はある(スペースプレーン、リニアカタパルトなど)が、しかし、なぜ今使える技術ではいけないのか?
 ツィオルコフスキーの公式をもう一度眺めてみたらいい。この本はそういっている。宇宙へ行くなんて簡単なことじゃないか。なぜそれをやらない?
 そういう思考実験として、読んでみる価値はあると思う。


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