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ウィーン薔薇の騎士物語(1~5)
 読書

ウィーン薔薇の騎士物語(1~5)
高野史緒 中央公論新社C・NOVELS

2001.9.27 てらしま

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 高野史緒の斬新な新境地としてちょっと話題だったシリーズが、5巻でひとまず完結した。舞台は19世紀の終わり頃、バイオリン一本を抱えて田舎を飛び出し、音楽家になるべくウィーンへやってきた少年フランツの成長を描く物語。当時のウィーンとヨーロッパがどんなところだったのか、という時代考証とそこからくるリアリティはさすがのもの。新境地と書いたが、読んでいるうちに本当にそんな世界があるかもと思えてくる感覚は、以前から変わっていない。
 1巻を読んだときは、さすがにこれはどうだろうというような完成度しかなかったのだが、巻を読み進むにつれて文章も安定してきたし、そうなるにつれてだんだんと世界観やキャラクターに対する愛着もわいてきた。ひとまず完結、という5巻を読んだ頃には、私としては、これはこれでけっこう満足できた。
 それにしても、少年の成長という縦糸はあるものの、吸血鬼、耽美、呪われた楽器だのとずいぶんといろいろな要素が登場したシリーズだった。と思っていたら、最後のエピソードは、なにも変なことの起こらない実に控えめな話。活躍する人物も数を抑え、ジルバーマン楽団の中からは主にフランツと、3巻で登場した少女ソプラノ、クリスタに焦点を絞った落ちついた印象の物語で「ひとまず」幕を閉じた形になる。
 とはいえ、まだまだ提示された話は残っている。なにしろ、フランツたち薔薇の騎士四重奏団はウィーンの皇太子を友人に持っている。あとがきによればこの人、5巻の時点から3年後には暗殺され、それが第一次世界大戦の引き金を引くことになってしまうわけで、フランツの将来にはまだまだ大きな試練が待ち受けているのだ。
 そうなってくると読者としては、やっと愛着もわいてきたキャラクターたちの行く末がどうしても気になってしまうではないか。あとがきには「そういう話も書きたい」と書いてあったから、気長に待つもりでいる。


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