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ドミニオン:陰謀のインパクト
 日記

 ドミニオン:陰謀が、ドミニオンというゲームに与えた影響はけっこう大きい。詐欺師や破壊工作員などの攻撃カードがわかりやすいわけだけど、もちろんそれだけじゃない。

 なんでそういうことを書いているかというと。ドミニオン:陰謀というのは、ボードゲームの追加セットとしては希有といいたくなる成功を収めていると思うからだ。
(商売としてはどうなのかくわしく知らないけど、ここではゲームとしてという話)
 ボードゲームの追加セットがやることのパターンとしては、もちろん追加ルールが挙げられるだろう。
 先日日本語版が出た、パンデミック・絶体絶命などは、プレイヤーの一人を敵にしてしまうという大胆なオプションルールが入っていたりした。
 デザイナーの立場に立ってみれば、そうなるのはわかる。せっかくだからルールを追加したくなるというのは、デザイナーとしては自然な発想だろう。
 しかし、これはリスクもある。と思う。
 ルールを追加したゲームを遊ぶためには、基本セットのルールがわかっていなければならない。追加セットを買ってしまったら、新規プレイヤーと一緒に遊ぶことが難しくなる。
 とくに、コンポーネントをいろいろ追加したり、カードの一部を変更したりといったものだと、追加セットを混ぜたあとめんどくさくて基本セットに戻せなくなったりする。
 そうして新規プレイヤーが増えなくなって、やがて遊ばれなくなるということが、けっこうあったりすると思うのだ。
 というか、わたしのコレクションの中にはいくつかあるのだ。

 驚くべきことに、ドミニオン:陰謀には新しいルールがないのである。
 これはがんばって我慢したんじゃないかと思う。カードの効果は複雑になったものの、ルール自体は変わっていない。
 だから、いきなり陰謀入りで新規プレイヤーにインストしても大丈夫なんじゃないかと、最近は思っている。
 というか、もはやドミニオンをはじめてやるという人に会う機会がなくなってたりもするけど。
 そんなところも含めて、基本ルールの完成度がとんでもなく高いということができる。

 だからこそ、カードが追加されることでゲームがどう変わったのかを考察することができる。ゲームが壊れなかったからできることだし、考察したくなるほどゲームに変化があったということでもある。
 というわけで、ちょっと思いつくところを挙げておいてみようと思った。

  • 勝ち筋が追加された
     具体的には、↓あたりが増えている。まだあるかもしれない。
    • 橋コンボ
       橋を何回も撃って、勝利点カードを安くして大量に買う作戦。
    • 公爵
       超強い。
    • アクションが減らないアクションをつなげる作戦

       基本セットでは研究所くらいだったけど、今回はたくさんある。

     ルールを変えずにこれをやってみせたのはすごいことだ。と思う。

     また、破壊工作員という一発逆転の可能性を用意した。

  • インタラクションが強くなった
     まあ、インタラクションが少ないというのはよくいわれることだった。
     とはいえ、じつのところ、よくいわれる「インタラクション」という言葉が、本当にゲームとしてのインタラクションを指したモノかどうかは微妙だ。
     たとえば詐欺師や破壊工作員を「とるかどうか」という部分は大きなインタラクションだろう。けれど、攻撃カードの「効果そのもの」の解決は、別に他のプレイヤーによらない。対象プレイヤーを選べるわけでもない。
     じつのところ、ゲームとしては、そこでなにかを選択しているわけではないし。そういうのをインタラクションと呼ぶ必要はないように思う。
    (詐欺師のカード選択などはもちろんあるけど)
     そう考えれば、いかに迷惑な効果でも他のカードと変わらない。そういう効果があって、それを解決してるだけ。
     攻撃カードだからインタラクションかというと、そうとはかぎらない。
     でもインタラクションが強くなったとは思っていて、それはむしろ、選べるカードの多さに起因している。
     陰謀のカードは、超強力カードが少ないかわりに強さが底上げされている。つまり弱いカードが少なく、選択が多様になっている。
    「この場ではこの作戦!」というケースが少なくなっているわけで。「どんな作戦を選ぶのか」という部分でのインタラクションが、強くなっている。そう考えられると思う。
  • 序盤のジレンマが減った
     これは成功なのかどうか、よくわからないけど。
     ドミニオンの問題のひとつとして「1ターン目に村を買いたくなる」というところがあった。しかし序盤に村を買ってはいけない。楽しいカードだからみんな買いたいのに、あわてて買うと負ける。これはあるていどの経験値がなければ回避できないジレンマだったわけで。
     しかもこれをやってしまうと、序盤からいきなりゲームにおいていかれることになる。生産が拡大するゲームだから、遅れをとり戻すのは難しい。経験が浅いプレイヤーに対して、不親切といえば不親切なゲームになっていた。
     陰謀のカードには、こうした「最初に買ってはいけない」カードが少ない。それどころか、男爵や銅細工師のように序盤ほど強いカードもある。
     たとえば貧民街は、序盤ならたぶん2枚引ける。村とは違う。2枚引けるとなれば、いきなり買っても間違いとはいえない。
     効果を選択できるカードが多いのも、そのためではないかと思える。
     村を最初に買うのは間違いだが、鉱山の村なら。すぐ処分してもいいつもりになれば、銀貨を超えるお金になる。執事は、どう間違っても絶対に2金以上を生産できることになっている。寵臣もそうだ。
     これはおそらく、デザインされたバランスだろうと思う。序盤に関しては、たしかに、ジレンマを減らすことに成功しているのではないか。
     しかし、カードの効果は複雑になった。同じカードを使ってもその後の選択でゲームが変わるため、展開が多様になっている。「○○作戦!」というのを考えるのが難しく、序盤をすぎるとどうしていいかわからなくなる。
     ゲーム中に考えることになるから、プレイ時間も延びた。けっきょく、基本セットよりもさらに経験が求められるゲームになったと思う。
     そのあたり、どこまでがデザイナーの意図どおりなのかは気になるところだけど。

 ……といったあたりかなあと思っている。
 どれをとっても、ドミニオンの欠点を補強する意図がけっこうはっきりと感じられる気がする。
 ルールを変更せず、また過去のカードに変更を加える必要もなく。カードの追加だけでそれをやれてしまうということになる。
 カードセットもよく考慮されている感があるけど、それ以上に、基本システムがすごく堅牢なんだなあと思う。

 なんか、また追加セットが出るようですが。こんどはどうなるのかというのも気になる。


ドミニオン:陰謀のインパクトを