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パヴァーヌ
 読書

パヴァーヌ
キース・ロバーツ 越智道雄訳 扶桑社

2001.12.8 てらしま

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 スチームパンクというのを私はぜんぜん読んだことがないのだが、こういうのがそうなのだろうか?
 テクノロジーが発展せず、蒸気機関と手旗信号が世界を動かしている、20世紀のイギリス。そこに生きるさまざまな人間の人生をそれぞれに描きだすなかで、それがやがて世界を大きく動かしていく、というのがあらすじ。人間がそれぞれの人生の中で喜怒哀楽を演じ、その思いの一つ一つがやがて歴史のパーツとなっていく、というプロットにはなにかすごく惹かれるものがある。
 が、こういうテーマを掲げた作品の問題点というのは、これに完全に成功した作品は存在しないんじゃないか、というところだ。やはり、一つの作品の中で幾人もの主人公を描ききることは難しいし、小説である以上、現実からは乖離してしまう部分(ご都合主義、というのはそれを意味しているんだと思う)はどうしても残る。
 要するに、小説は終わらせる必要があるが、歴史は終わらないということだろう。だから、このテーマの小説はいつも最終章に納得がいかない。
 これは小説への苦言ではない。私はむしろこうした作品が好きだし、これに挑戦する作家は応援したくなる。この本もだから、好きか嫌いかと訊かれたら好きだと答えるし、出来だって決して悪くはない。いや、むしろ面白いのだ。
 世界の雰囲気は抜群のモノがある。手旗信号をリレーして電報のように遠くの相手と通信するなどは実に面白い。しかし、やはり最終章の「ご都合主義」的展開がどうも、少しばかりよくできすぎている。
 信号手や蒸気機関車の運転手や、修道士や、そういう人々の歴史が最後に一つに縒り合わせられる瞬間、そこが面白味であるはずの部分なのだが、どうも読んでいて醒めてしまう。
 この作者キース・ロバーツの作風だという。とにかく情景描写が多く、台詞や行動の直接的な描写はなかなかしない。それが、少し読みづらくしているのは確かだが、「もう一つの歴史」をみずみずしくイメージするにはちょうどいい。小説体験として異世界を感じるという部分では、楽しめた。


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