2006.05.10 00:14 てらしま
クロマニョンとネアンデルタールは、どちらが生存競争に勝利してもおかしくはなかったんである。我々の宇宙では、たまたまクロマニョンが勝ったが、脳容積はネアンデルタールのほうが大きいし、ネアンデルタールが勝った歴史が、並行宇宙のどこかにはあってもいい。
というネタ。(ネアンデルタール側の)量子コンピュータの実験中に並行宇宙からこちらの宇宙にやってきてしまったネアンデルタールの男の話である。
まあ、筋だけを見れば、というかほんとに筋は、角川映画ででもやりそうなほのぼのファンタジー系の話。いや、話自体の出来でいえば、角川映画のほうが上。
ああ、そういえばあったねそういうD級映画が。もっとも、ソウヤーユニバースの北京原人は×××だったようだが(ネタバレ回避のため伏字)。
短編でできそうな話である。
しかしそれが、920円分の本一冊じっくりと書きこまれている。そのあたりはさすがだ。異星人(ではないが)の進化過程から宗教、文化、椅子やベッドの形までとにかくいろんなことを考えるのが、好きなんだろう。
そういうのをいろいろ説明したりしているだけで、我々SFファンには充分に楽しいのである。
裁判の場面が出てきたりもして『イリーガル・エイリアン』を連想させる。まあ印象としては、イリーガル・エイリアンよりも一回りスケールが小さく、一つ一つの設定の迫力も薄いが、それでも充分におもしろい。
個人的に、宗教のくだりに納得がいかなかったり、ネアンデルタールの社会システムに疑問があったりもする。イリーガル・エイリアンではそういうことが少なかったという意味でも、やっぱり縮小版という感じは否めない。
なんとなく「本気で書いてない」雰囲気があるようなないような。全体的に、いつものソウヤーと比べると説得力がない。量子コンピュータについての説明だってもっとやれるだろうし。この本で描かれたネアンデルタールのたどってきた歴史には、やっぱりどうも矛盾点がありそうに感じてしまう。
が、それでもおもしろいのである。
そういえば、量子コンピュータの多世界解釈を最大限に拡大適用したこういう話は、日本では二十年くらい前にずいぶん流行った気がする。むこうでもそうだったはずだ。ネタとしてちょっと古臭い感じがあった。
日本では山田正紀とかがだいぶ使ったし、これを使えばなんでもできることがわかってしまっている。SFファンはもうかなり飽きてると思うんだけど。SFファン以外の読者を想定しているんだろうか?