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マリア様がみてる レイニーブルー
 読書

マリア様がみてる レイニーブルー
今野緒雪 集英社 コバルト文庫

2002.3.30 てらしま

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 やっぱりおもしれえなあ、とは素直に思ったのである。
 ただ、ちょっと不安なところもある。「この話、前に見たことあるぞ」と思ってしまったのだ。
 考えてみれば3年生が卒業して、このシリーズはキャラクターが減ったのである。基本的にキャラクター同士の人間関係の物語である以上、そろそろワンパターン気味になってしまっても不思議はない。だが、それとともに彼女たちも成長しているに違いないと思っていた読者としては……。
 シリーズの設定については、もう一度説明するのが面倒なので、前回までのレビューマリア様がみてるを見てください。
 前回から「紅薔薇の妹」となった主人公、祐巳だったが、ちかごろ、気分は晴れない。最近、「紅薔薇」祥子さまがつれないのだ。折しも季節は梅雨。陰気な天気が続いている……。
 今回の季節は梅雨。したがってこういう話になる。他にも、白と黄の姉妹の話がそれぞれある。
 意外だったのは。そろそろ主人公の妹となるキャラクターが登場するかと思っていたら、この予想が覆されたのだ。登場するのは、これまでの人たちだけ。学年が上がって新しい段階を迎えた、姉妹たちの関係というのがこの巻のテーマになっている。
 キャラクターの配置が変わったのだから、当然展開は変わってくる。しかし、主人公の悩みが以前とあまり変わりばえしないところが、少し残念ではあった。
 今回、気づいたことがある。実はこのシリーズ、百合版『めぞん一刻』なのである。
 もちろん、主人公は浪人生ではなく女子高校生だし、設定はほとんど似ていないのだが、要するにあれと同じ、ひたすらすれちがう人間関係の話なのだ。ここであえて『めぞん一刻』を挙げたのは、時間の流れと共に季節が移り変わり、その折々の季節感を題材として物語に絡めていくという手法が共通していたからである。
 黄金のワンパターン、というのがこれに加わりそうなのである。
 ただし、このシリーズの特徴はもちろん、「百合系」であること。主人公の憧れの人は同性なのだし、しかも彼女たちはレズビアンではない。したがって『めぞん』のようなゴールインはありえない。
 それに対し、一つの回答はシリーズの中にすでに示されている。憧れの人の、さらに憧れの人であった3年生たちが退場するときだ。雲の上の存在だった彼女たちは普通の少女になり、ノーマルな恋愛をして、あるいは未来に夢を抱いて卒業していく。
 おそらくは、たぶん、ずっと先のシリーズ最終回もその形を繰り返すことになるのだろう。
 というより、学園モノのエンディングというのはそういう形しかありえないかもしれないと私は思っているのだが、あまりそう思いこんでしまっては読む楽しみがなくなってしまう。
 考えてみれば、話の中ではまだ5月である。
 この姉妹関係は、あと10ヶ月続くのだ。これまでは1巻で1ヶ月ずつ時間が進んだから、それでいくと残りはまだ10巻分もある。そこで彼女たちはどんな過程をたどり、どんな答えにたどり着くのか。先は長い。
 提示されたまま解決されていない問題もあることだし、それを思えば、多少はワンパターンでも続きへの楽しみは減ってはいない。
 それに、まあ、私は充分に楽しんで読んでいる。
 ところで、少し、唐突な話になるが。
 一ヶ月延びた発売日が開幕戦の日で、そのためにどうも、この主人公を西武ライオンズのエース、松坂に重ねてしまったのである。
 誰よりも目の前の勝負にのめり込み、そしてひどく脆い。熱くなるあまり突然乱れる癖は、最多勝を重ねても治らない。そんないろいろなところが、似ている気がするのである。
 松坂は今回で3年連続開幕投手となったが、過去の2回はいずれも負けている。気合いが空回りして、力んでしまうのだ。
 試合は、ロッテの先発ミンチーとの投げ合いになった。いずれも、一歩も譲らない好勝負。そんな中、西武は4番カブレラの内野安打からヒットエンドランでチャンスを広げ、タイムリーヒットで先制点を入れる。松坂を勝たせてやりたい、松坂で勝ちたい、西武の思いが詰まったような攻撃だった。
 その後追加点もあり、3対0で迎えた9回表。しかし、やはりというか、松坂は引きこまれるようにヒットを打たれ、ロッテの代打攻勢によってたちまちのうちに2点をとられてしまったのである。
 試合を見ながら、ついでに、サッカーの元イタリア代表ロベルト・バッジョの歩みをまとめたビデオを思い出した。その中に、こんな場面がある。インタビュアーがイタリアの街で、通行人にこんな質問をする。「ロベルト・バッジョは神さまだと思いますか?」 例えばペレや、マラドーナのような?
 訊かれた人は誰もが首を振る。そしてこう答えるのである。「いいや。あれほど人間的な男を、見たことがないよ」
 ワールドカップの決勝でPKを外した男に対し、これほど愛のある言葉はない。
 1点差までつめよられたが、しかしそこから、松坂は踏んばった。ゲームセット。開幕の松坂、3年目の勝利だ。
 私は、松坂に勝ってほしかった。だからこの試合は楽しんだし、結果には喜んだのである。


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