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マリオネット症候群
 読書

マリオネット症候群
乾くるみ 徳間デュアル文庫

2001.10.26 てらしま

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 どうかと思う、という感想が的を射ているだろう。が、この言葉を使って褒めなければならないという、どうにも難しい命題が、いま私には課されているわけだ……。
 感想の前にいくらか解説である。
 たぶんタイトルの元ネタは、メアリ・H・クラークの『アナスタシア症候群』という小説。これを少し説明しておくと……。
 アナスタシアというのは断首刑で死んだロマノフ朝の王女の名前。ところがなぜか、処刑のあとに「自分はアナスタシアだ」という女性が他の国に現れた、という実話がある。このころにはもうアナスタシアの本人は死んでいるはずなんだけど、何度訊いてもいろいろな質問をしても彼女は自分がアナスタシアだと信じて疑わない。
 この人、結局死ぬまでそう言い続けた。この話を元にして書かれた小説が、『アナスタシア症候群』で、ここでは現代に復活したアナスタシアの霊みたいなものが主人公の身体を乗っ取ってしまう。
 この小説、NHK-FMラジオの連続ドラマ「青春アドベンチャー」でやっていたので、憶えている方も多いと思う。
 さてここで、もしもこの乗っ取られた身体の方に意識が残っていたら……。というのが本書。
 冒頭、朝目覚めた主人公は、どうやら自分の身体が他人に乗っ取られてしまっていることに気づく。それはどうやら男性らしい。しかもサッカー部の、憧れの先輩? さらに、その彼はどうやら、実はすでに毒殺されてしまっているらしい?
 で、この少年が主人公の身体で学校へ行ったり自分の死因を調べたりといった行動をとるところを、なにもできない主人公の一人称で描写する。
 主人公の身体はなにしろ乗っ取られているわけだから、本当になにもできない。指一本どころか、誰ともコミュニケーションをとることすらできず、ただ目の前で起こる出来事を眺めるだけ。
 という、なんとも奇妙な小説なのである。
 一応、新本格ミステリみたいな展開になっていくのかと思ったら、それはそれとして物語はそれどころじゃなくなってくる。中盤を過ぎたあたりからは次々と意外な展開を見せ、……一体、そんなことで本当にいいのだろうか……。
 それにしてもよくもここまで、なんというか、斬新というかばかばかしいというか……。
 ともかくしかし、おもしろいのだ。ネタはばらせないし、読んでみてもらうのが一番早いワケだけど。
 女子高生の一人称に加え、読むのに時間のかからないお気楽な文章。人が死ぬ話なのにさっぱり深刻にならないし。デュアル文庫が今月から新しく始めた書き下ろしノヴェラシリーズの先鋒ということになっていて、ノヴェラだから短い。読み始めたらあっという間に読み終わる。


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