2004.1.17 てらしま
素直に『ハウルの動く城』の原作を読めという話もあったんだが、こっちの方がおもしろそうだったんである。
ある日突然、家に「ゴロツキ」が居座ってしまう。そんなところから話は始まる。身体がでかくて乱暴者で、頭が小さいこの「ゴロツキ」だが、意外にいい奴かもしれなかったりして、なかなかかわいい。
誰も知らなかったことだが、実はこの町は7人兄弟の魔法使いに支配されているのである。彼らはそれぞれにすごい力を持っていて、世界を征服したがっているのだが、それがなぜか、この町から一歩も出ることができない。その理由はどうやら、売れない作家である「父さん」の原稿のせいらしい。
その原稿をめぐり、7人の魔法使いが次々と現れ、主人公の家族に災難をふりかける。魔法のせいでいろいろ大変なことが起こる、ドタバタコメディ。
特に中盤以降の展開が実にびっくりで、かなり楽しかった。
この作者の特徴らしいが、本当にそれぞれのキャラクターがいい。いつも宇宙船のことばかり考えている主人公の少年、その妹、声がすさまじいからつけられたあだ名で「スサマジー」、この二人を中心に、10数人の登場人物それぞれが、決して忘れられない魅力を持っている。こいつらがドタバタやってればそれでもうおもしろくなってしまうのだ。
でもそれだけじゃあ、普通のよくできた作品。この本の突出した部分はやはり、「父さんの原稿にはなにかすごい力があるらしい」というあたりだろう。こういうメタフィクションぽい要素があると、なんか気になってしまう。
魔法の力はかなり万能で、なんでもできてしまう。しかし文章の力はもっと強いのである。なにしろ小説の中なんだから。文章の力を持ち出すことで、小説は本当になんでもアリの世界になってしまうわけで、これはもうスーパーサイヤ人もびっくりのインフレーションを引き起こしてしまうわけである。
インフレはやはり楽しい。しかしこれはたぶん書き手にとって危険というか、読者にとっては不安になる要素でもある。どこまでも話が拡大してしまっては、終わり方がなくなってしまうからだ。
しかしこの本の場合、なんでもできる可能性を示しながら、それはそれとして、キャラクターたちの気ままな行動をしっかり描いていき、あくまで話は町と主人公の家族から外れない。そこがいい。
いろいろとびっくりなことが起こって楽しいのだが、最後には児童書(?)らしく、ちゃんと主人公の成長にいきつく。あくまで変な世界の中で、かなり変な過程で成長を遂げてしまうことになるが、まあこんな話の中では納得力があるというもの。とてもおもしろかった。ダイアナ・ウィン・ジョーンズは他のも読んでみなきゃいけないな。