2002.9.13 てらしま
日本には「宮崎駿夫」というジャンルがあると思っている。スチームパンクっぽい科学技術が外挿されたファンタジーで、元気な少年少女が主人公の冒険モノ。なぜかどこか世界観に広がりが感じられず、登場人物たちは典型的で隙がない。物語の方は、いくぶんご都合主義ぎみ。そういうジャンルだ。
少々穿った見方だが、これはそういうジャンルに属する話である。
前作で主人公ノエルを乗員に加えた海賊船ユーラスティア号。ある日、遭難した老人を海で助ける。聞けば老人は、何度そうして遭難してもあきらめずに嵐に囲まれた島を目指しているらしい。船長のユーリは老人の話を聞き、その思いを叶えてあげるために島を目指す。
少し短すぎと思わないでもないが、そこは文字の大きい子供向けの文庫のこと、しかたないといえばしかたない。そもそも、我々のようないい大人が読むためには書かれていない。
そういうところをさし引けば、前作に続きけっこう楽しめた。次回に続く話もかなり多くあったので、先が楽しみでもある。
最後にはバーンと神秘の力が顕れて問題を解決してしまうあたり、子供向けのためか非常に素直で、わかりやすい。
ふだん読んでいるものが、ずいぶんとひねくれた話ばかりだったんだなあ、と今さら気づかされてしまったりもした。
だけどその神秘の力を使うため、ユーリは命を削らなければならないのだ! といってしまうあたりがこのシリーズの特徴であり、おもしろいところだ。そのせいでただのご都合主義ではない、深みのある話になっている。
素直な正義と共に苦悩がある。ただ教訓が示されたわけではなく、読者はちょっと考えなければならない。
文学性がとかいっちまってもいいんだけど、それよりもむしろエンターテインメントとしておもしろかったと思う。
情報があふれている今の時代、ただ単に勧善懲悪では子供でも納得しないだろう。そういう意味で、素直な話の中に「でも」を含めて見せる、このバランス感覚が秀逸なのだと思う。
もう少し上の年代向けのものでもこういうものがないかなあ、と思ってしまうのだが、これがなかなかない。ひょっとして、子供向けの本にもっと目を向けた方がいいのかも、とも思う。