遊星ゲームズ
FrontPage | RSS


死のロングウォーク
 読書

死のロングウォーク
スティーブン・キング 沼尻素子訳 扶桑社ミステリー

2003.6.17 てらしま

amazon
 読み終わってへこんだ。普通本を読んでへこむときはその本の出来が期待はずれだったときなんだけど、これはそうでもない。大袈裟にいやあ、人生の厳しさに絶望したのかもしれない。
 100人の少年が集まり、「ロングウォーク」なるスポーツに参加する。これはどういうスポーツかというと、100人が一斉に歩き始め、昼夜を問わず歩き続ける。それだけ。歩く速さが規定の時速4マイルを下回ったら「警告」を与えられ、4度目の警告を受けたら「切符をもらう」。つまり銃で撃ち殺される。最後の一人になるまで競技は続くのである。
『バトルロワイアル』のときに話題になったので(もちろん内容がそっくりだったから話題になったのだが)ずっと読もうと思っていた。
 今になってやっと読んで、本当にバトルロワイアルに似ていると思った。しかし、個人的には、バトルロワイアルよりおもしろかった。
 開始から15ページ目で、少年たちは歩き始める。それから長編一冊に渡って、ずっと歩いているのである。考えてみればそれだけの小説なのに、途中でやめたいと思わなかった。それだけですごい。
 日本でもアメリカでも、ベストセラー作家の小説には共通する特徴があると思う。「内容がなくても読ませる」ことだ。この本は実質的なキングのデビュー作らしいが、なるほどと思う。子供が歩くだけで長編一冊を書けてしまう才能は、確かにすごい。
 バトルロワイアルより気に入ったと書いたが、その理由は『死のロングウォーク』の方が世界観が厳しいからである。
 バトルロワイアルの欠点は、クラスメイトが死ぬことに次第に現実感がなくなっていき、麻痺してしまうところだ。『死のロングウォーク』では逆なのである。読み進むほど、他の少年の死に緊張感が増していく。次第に自分にも死が迫っていると、見た目にわかる。みんなで並んで歩くという設定の妙だ。
 殺し合いをしているわけではないのに、自分が歩き続けているせいで他の少年が死ぬ。自らの手で殺すわけではないから悪意はないのだが、結果は同じだ。この世界観は非常に厳しい。
 このゲームから登場人物が脱出したのかどうかは書けないが……。えらそうな表現をすれば、生き残ってもロングウォークは続くのである。とても絶望的な、しかしだからこそ勇気づけられる部分もあるようなないような。これみよがしに「がんばれ」と叫ぶ本よりはずっと説得力をもって訴える力があるのはたしかだ。


.コメント

死のロングウォークを