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永遠なる天空の調
 読書

永遠なる天空の調
キム・スタンリー・ロビンスン 内田昌之訳 創元推理文庫

2001.12.6 てらしま

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 自己紹介のところにも書いたけど、マイベストなのであります。
 どうもマイベストと思っている本というのは人に勧めづらい。相手に貶されたらどうしようというのももちろんあるが、それ以上に、私がベストだと思っているということは私の中のかなりの部分がこの作品を肯定してしまっているわけで、もしも他人がこれを読んだときにどう感じるかというのが少しも想像できないというか、ひょっとしたら、たとえ「いいね」と言ってくれたとしても、それはきっと私の思っていることとは違うだろうなとか、要するにそんな、ファン心理というかなんというかそういうものを感じてしまうのです。
 それを少しでも紛らすために、「これを読むのは『幼年期の終わり』と『火星年代記』と『タウ・ゼロ』と、あとえーと、せっかくだから『荒れた岸辺』(品切れ)も読んでからにしてね」とか逃げ口上を打ってみたりするワケなのだが、まあそれは別の話というもの。
 内容はアレである。なんかもう、紹介するのがもどかしい。宇宙に一つしかない楽器「オーケストラ」を受け継いだ主人公ヨハネス・ライトは、惑星を渡り歩いてコンサートを開く「太陽系ツアー」をやるワケである。そういう話。
 とにかく、読んでいて「俺は今シアワセだ」と本気で思ってしまった本というのはまったくこれくらいのもので、琴線に触れたとかそういうレベルではなく、もっと大規模に同調してしまったワケで、つまりほら、そういうことってありませんか。そういうのはだいたい、夜中に書いた手紙みたいなもので、朝になって興奮から醒めてみるとどうってことなく思えて恥ずかしくなってしまったりするものだけど、これはそんなこともなく、読んでから4年も経った今でもマイベストであり続けているわけです。
 音楽モノということで、『ソングマスター』とかを思い出す人も多いと思う。けど読んでいる感じはかなり違うといっていい。これはあんないやらしい話ではなく(ファンには失礼)、もっと愛と勇気と希望のある話だ。なにをいっているんだ俺は。
「科学っぽいところがすいぶんてきとーだし、ちょっと古くさいね」と言われればごもっとも。「まとまりのない話だね」と言われたらそうかもしれない。だが、マイベストというのはそういう次元で決まるものではないのだ。
 ……どうも、さっぱり紹介になっていない気もするのだが、つまり、この本が私という一人の人間に「ベストである」と言わせるだけのパワーをもっていたのは確かなわけで、私みたいな人間は他にもきっといるし、だからたぶんそれくらいの価値はあるに違いないのではあろうと思わんでもないかなあ。
 人に評価を訊くと、「最高」と答える人と首を傾げてすまなそうに「わからない」と答える人の2つに分かれる作品というのがある。中間はなく、最高とわからないの二択になってしまうのである。
 そうした作品は比較的作家の処女作に多く、どこかまとまりはないが勢いのあるものが多い。安定した評価を得られないからすぐに忘れられてしまうが、ごく一部の人々だけは長く記憶をとどめている。これはいわゆる「オタクうけ」とかそういうことではなく、もっと純粋なものとしてだ。
永遠なる天空の調』はまさにそういう作品だ。だから、あまり積極的におすすめをする必要はないだろうと思う。
 ともかくどこかで誰かが読んで、その人が「俺は今シアワセだ」と感じたならそれでいい。そう思える本というのは、私にとってはこれだけなのである。やっぱり紹介になってねーけど、まあそれでもいいんじゃないか。


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