2006.05.30 20:01 てらしま
2冊目春待ちの姫君たちは、つまらなくはないけど微妙だった。でも3冊目のこれはおもしろかった。
1冊目『白い花の舞い散る時間』の続編というか外伝である。前作で名前だけ出てきた、都《みやこ》さんが主人公の、過去の話だ。
特別優秀な人とお嬢さましか入れない、特別な塾がある。
丘の上に建つ、教会か大聖堂かというような、豪華な石造りの建物が、塾だというのである。
そこに、主人公が入ってくる。都は本当に深窓のお嬢様で、いままで学校にもいったことがない。そんな彼女が、この塾ではじめて同年代の少女たちとの生活を経験する。
というわけなのだが。
そこはまあ、そういう話だったりそれどころじゃなかったりいろいろ。
登場人物を幸せにしてやりたいとか、家族愛とか友情とかそういう、物語の世界では当然あるものとされているものが、このシリーズでは、あるかどうかわからない。あるのかもしれないし、ないかもしれない。そのあたりがおもしろさだ。
この本でも、そんな特徴が充分に発揮されている。
おもしろかった。のだけれど。
個人的には、もっとつっぱしってほしい気がした。
もっと薄情な、というか人間性を完全に捨て去ってしまった小説が読みたい。
ここまでやったのなら、もっとひどい話ができるのになあと、思ってしまう。もっとひどい、本を投げたくなるような読後感を味わいたくなる。
……いやもちろん、そうじゃない人もいるだろうし、どちらがいいのかは知らないけど。というか人情はあったほうが、一般的にはいいんだろうけど。
こういう珍しい小説を読むと、過度に期待したくなってしまうのだ。
本気で悪魔に魂を売ってしまった、とんでもない小説が読みたい。
あたりまえの感動はもういらない。特に同情を押しつけてくる話は飽きた。記憶障害とか白血病とかのヒロインに同情する話はもう飽きたじゃないか。
はっきりいえば、主人公にいくら泣かれたって共感などできないのだ。それがもう、わかってしまっている。ある程度の量を読んでスレちゃってる人たちには。
ああいうのが売れてるのは騙されてるだけで、そのうちブックオフに余るのは目に見えている。
それよりは、とても共感できないようなバケモノじみたキャラクターのほうが、本当はおもしろいんじゃないのか。とも思う。
主人公がなんの救いもなく死ぬとか、主人公が殺人鬼だとか、そんなのでかまわない。地獄の鬼が書いたような、ひどい読後感の小説を、たまには読みたいと、思うじゃないか。
でこの人。
そういう、あたりまえじゃない話を書くことのできる、珍しい作家の一人なのだ。
ただし、いまのところは、そのどちらが飛び出すかわからない。
これはまだ成熟していないからだろう。いまのところは、このわからないところがおもしろいわけでもあるけど。
一人の作家が抱えられるテーマの量などそう多くないと思う。けっきょくは、どちらかに転げ落ちることになるという気がする。
そのときはぜひとも、悪魔と契約しちゃってほしいなと、身勝手なファンは思うのだ。