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紫骸城事件
 読書

紫骸城事件
上遠野浩平 講談社

2001.7.13 てらしま

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 上遠野浩平という作家は「謎に弱い」と言ったのは友人のTだが、私もそれに賛成だ。世界の雰囲気を作り、キャラクターたちがその中で動き回るまではいいのだが、物語が終盤にさしかかって、それまで提示されてきた謎が解明される段になると途端に、その世界観が崩壊していってしまうのである。
 行き当たりばったりというかなんというか、キャラクターと世界が勝手に動き回っているうちに作者の手を離れていき(それがまたわりと魅力的なものだから)、しかし話だけは構想通りに終わらせようと、強引な展開で収束することが多いのだ。提示された謎が大きければ大きいほど、その破綻も大きくなっていく。
 この欠点に対して、この作家の長所は「女子高生に強い」だと私は思っている。上遠野浩平の小説の中で、『ブギーポップ』も含め、私が面白いと感じたものには例外なく女子高生(もしくはそれと同等の年代の少女たち)が登場していた。
 さてそこで、『紫骸城事件』だ。
「事件」とある以上、謎が主題の物語だろう。読み始めると、主人公は少女ではないし、主要キャラクターの中に「女子高生」に類する種類の人物はいない。
「謎に弱く」、「女子高生に強い」上遠野浩平の作品としては、もっとも期待できない種類の話なのだ。
 とりあえず、世界観は『殺竜事件』と同じものである。「事件」シリーズとでも呼べばいいのだろうか。もちろん、『殺竜事件』もやはり、女子高生もなければ謎もある話だったわけで、上遠野作品の中ではかなり、まあ、出来の悪い作品だったと思う。
 その続編なのだから読まなけりゃいいわけなのだが、しかし、この作家はもう一つ、「どうも気になる」という特質を持っている。本屋に新刊が平積みになっているのを見ると、つい手にとってしまうのだ。
 物語は、大昔に魔法サイボーグが悪の魔女と戦うために作った城「紫骸城」で年に一度開催される「限界魔道競技会」に、英雄である主人公が立会人としてやってくるところから始まる。この「紫骸城」だが、実は「雪の山荘」と同様に、隔離されていることになっている。ここで連続殺人事件が起こるわけだが、当然その犯人もこの中にいるに違いない、とそういう話になっていくわけである。
 ミステリーの常套手段である隔離された環境というものを、ファンタジーという世界観(?)を利用して、少し大袈裟に作ったわけで、ここまではまあ「なるほど」だ。(でも、その中に100人以上の人間がいるのでは、隔離の意味が半減しているような気もする)
 もちろん、タイトルに「事件」とある以上これはミステリーなのだし、あまりネタをばらすのはよくない。
 さて、読み終わった私の感想としては、「意外に悪くない」。もちろん始めに書いたとおり、私はこの本に毛ほどの期待も持っていなかったわけだから、あまり参考になる意見ではないと思ってほしいけど。
 謎に関しては相変わらず弱いし、女子高生というアーキタイプが使えないキャラクターの造形も『ブギーポップ』などに比べるといまいちだ。だが、その欠点を世界設定が補っている。本筋とは関係の薄い話がちょくちょく語られ、それがどれも面白そうなのだ。もちろん、本腰を入れて語られない以上、「面白そう」であって本当に面白いわけではないのだが、そういう部分にも吸引力はある。
 つまり、間違っているのは、タイトルに「事件」とあるところ、この世界観を使ってミステリーをやろうとしたところなんじゃないのか。と、これは『殺竜事件』に続く結論なのである。


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