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葉桜の季節に君を想うということ
 読書

葉桜の季節に君を想うということ
歌野晶午 文藝春秋

2004.1.25 てらしま

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 本格ミステリだのなんだのと一所懸命に謳われているが、それもネタのうちだと思う。なんのことはない、悪ふざけが大好きな新本格だった。
 例によってネタバレは書けないが、バカな話である。
 それにしても、本の帯にもどこにもあらすじが書いていないのはどういうことだろう、やっぱりある程度どんな話か、わかった方が消費者も買いやすいんじゃないのかなあと思いながら買ったわけだが、最後まで読んだら理由がわかった。あらすじを書くと嘘になってしまいそうなのだ。
 でもまあ書く。
 主人公は自称「なんでもやってやろう屋」。警備員やらパソコン教室の講師やら、いろいろなアルバイトをやっている。自己中心的で理屈っぽい、いま考えてみれば名探偵のパロディによくある性格だ。
 そんな主人公が、老人を相手にあくどい商売をしている「蓬莱倶楽部」なる会社の調査を始める。この会社、保険金殺人までやるひどい会社で、昔探偵事務所に勤めていたこともある主人公はやがて社会正義のために、社会の闇にのさばる悪に立ち向かっていく。
 その一方、地下鉄自殺から救い出したことがきっかけで知り合った女性との間に、プラトニックな恋愛が芽生えていくというような話もあったり、さすがにこの厚さだ。いろいろな話があるわけだが。
 文章は妙に下品だし、セリフがどこかおかしい。「~なのです」とか、そんな喋り方を真面目にやってしまう。このセリフからはジョージ秋山のマンガを思い出した。シロガネーゼたちは『ザ・ムーン』のケンネル星人みたいな話し方をする。この本の中では。
 この不自然さは一体、意図されたものなのかナチュラルにこうなのか、この作家の他の本を読んだことがない私にはわからなかった。しかし新人でもあるまいし、なにかがあるぞというような予感はあったけど。
 厚い本だが、読みやすい。これも新本格バカ小説の特徴の一つじゃないかと思う。まったく、なーにが本格ミステリだ。新本格が新しくなくなって、もはや本格にとってかわったということか。
 けっきょく、主人公の鼻につく性格も、全編にちりばめられた一見関係なさそうなエピソードの数々も、すべて計算ずくのものだった。たしかに、これだけ作りこむのはすごいし、裏切られる快感というものも読者の喜びの一つではあろうが、これは、まともな小説が目指すものとはかけ離れたカタルシスである。
 大きなギミック一発の、一発ネタ小説なのである。つまり。この本について「映画化は不可能」とかいう評を耳にしたことがあるが、……そういう意味かよ。
 まあでも、私はそういうのが嫌いではないので楽しんだ。このミス1位で、ずいぶん売れているようで、なんというか、こんなものが売れる国はまともな文化を育んでいないと思わないでもないのだが。


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