2001.3.1 てらしま
読んでいてストレスはなかった。
つまり、一つ一つのシーンは面白いのだと思う。少なくとも、次に、次に、と読みたくなる文章のうまさはあった気がする。
それぞれの登場人物の特徴もちゃんと描かれる。シリーズになるということだから、次に引き渡されたところは大きいが、それ以外の部分はきっちりと解決する。ストーリー自体に破綻は見あたらず、信頼して、安心して読ませてくれる。
安心して読める、というのは重要ではないか。これほど大事なことも他にないという気もする。
だから、私はもちろん、この作品が嫌いなわけではない。
ストーリーはまあ、文庫のカバーを読んでもらうのがわかりやすいだろう。魔がうごめく平安京に、陰陽の術を使って活躍する人々の話である。鬼や精霊の類が、なんのてらいもなく普通に登場する、アクション小説というところである。
もちろん、こうした小説でもっとも重要なのはキャラクター、特に主人公だろう。
この点に関する限り、陰陽道を捨てて文筆の道を選んだ、しかし天才的な才能を持つ主人公というのはいい。お人好しだが、実は秘密の力がありそう、という部分も面白かった。脇役に関しては、ときどきイメージと違うことをしてしまう人がいたり、印象の薄い人がいたりもするのだが。
だが、一冊の読後感の一つとして、なぜか「誤魔化された」という感覚がある。
エピローグを読んで「あれ? そんな話だったの?」と思ってしまう。
主人公の心情に注目すればいいのか、悪役なのか、人間関係なのか。その焦点が、最後まで定まらない。だから、話が終わった読後になにを考えていいのか、わからないのである。
活劇として、楽しく読めたのは確かだ。エピソードの一つ一つは悪くない。しかし、その裏に通底するはずのテーマが一体どこにあるのか、明確にならない。
だから私は、読んだあとに戸惑ってしまった。
シリーズが続いているようである。だからこうしたところは、続きを読めば解消されるのかもしれない。
もしもそうなれば、いいシリーズになるだろう。今後に期待はするつもりでいる。