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電車男
 読書

電車男
中野独人 新潮社

2004.12.21 てらしま

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2004.12.21

電車男
中野独人 新潮社

 こんな本を読んではいけない。読んだら負けである。この「負け」という感覚を別の言葉で説明するのは非常に難しいのだが、わかってくれよ。内容がおもしろかったかどうかではなく、ともかく読んだら負けだろーがよ。
 これだけ売れてりゃあ、こんなところで説明するまでもない。2ちゃんねるの板で実際に起こったできごとをほぼそのまま本にした、ノンフィクションである。
 アキバ系のオタクと自覚している男がある日、なぜかふと起こしてしまった正義感。そこから始まる恋。ああもうなんつーか、あらすじ書きたくもねーけど。ともかくこの主人公は、通勤中の電車で暴れる酔っ払いを咎めてみたのだ。
 で、そこにいあわせた若い女性とどーのこーの。
 余談になるが、本には必ず部門コードというものがある。大抵は本の裏表紙に書いてある、「C0079」とかそういう数字の、下2桁の数字がそれで、「79」ならマンガ、「93」なら日本人作家の小説、「36」はドキュメントとかそういう風に、おおまかなジャンル分けができるようになっている。
 さてこの本、経緯を考えればノンフィクションなのだから、36あたりが妥当かと思えるのだが、実際につけられたコードは93。小説扱いだ。ノンフィクションともいいきれないということだろうか。しょせん2ちゃんねるの書きこみだ、全部が作り話という可能性だってあるとそういう意味だろうか、なんて思ってみたくなる。
 なにしろ2ちゃんねるである。まったく意味不明の日本語や意図的な誤変換が平気で使われていたり、2ちゃんねらーにしか理解できないだろう用語や感性があったりするわけなのだが、この本はそうしたものを、大して編集もせずに載せてしまっている。一番のウリはそこである。実際にあったことだという事前情報とあいまって、読者はここに臨場感と一体感を感じることができる。下手に編集してしまわなかった出版社の慧眼は評価していいだろう。
 ってそんなまじめに書評を書くのもばかばかしーやね。
 いや、別に、おもしろくないわけではない。これはつまり、巨大なネットワーク内に偶然生まれた都市伝説か、妖怪か、そういったたぐいのものだ。この現象のおもしろさはつまりニューロマンサーなのであり、サイバーパンクSFの一部分が現実になってしまった、そのことがおもしろいのである。つまり現象がおもしろいのであって、恋愛がどうのこうのとかそんな話はどうでもいい。ただ、これが「伝説」となるために必要な要素であった「奇跡」を演出するには、男女の出会いというのは最上の小道具ではあった。
 この掲示板に参加している連中の意識というのもあるだろう。このとき、彼らは「伝説」にいあわせたことに興奮し、一種のトランス状態になっていた。2ch用語でなくとも「祭り」だった。彼らはこの物語が伝説となることを望み、書き込みを連ねていった。おそらくは、電車男本人も同じだったのではないかと思える。物語そのものを書き進めたのは電車男本人だが、そこに肉付けしたのは祭りに参加した、何人いるかわからない2ちゃんねらーたちである。彼らが望む結果が得られた偶然からこの話は伝説になったのだが、同時に、この物語は彼らが皆で作り上げたものでもある。
 不特定多数の意識が無意識に結束して一つの物語を作り上げていく。しかも彼らはそのために集まったわけではない。いってみれば集団意識が生んだ、まさに伝説、妖怪としてこの世に生まれた物語というわけで、また2ch風にいえば祭りによって「神」が降臨した(誰かが神というわけではなく、皆の結束した祈りが具体化したという意味で)瞬間でもあったわけで、この過程は現象として、サイバーパンクとしておもしろいのだ。
 でもねえ、そんな醒めた見方をしてみても、負けは負けだ。くりかえすが、読んだら負けである。わたしは負けた。
「2ちゃんねるなんて読んでんじゃねーよ」とか普段はそんなことをいっているわたしなのだが、しかし一方で、観客として、巨大なネットワークの中に伝説が生まれていく過程に興味を持ってしまう。ひろゆきが裁判に負けたら2ちゃんねるは消滅してしまうかもしれない、そのことを残念だと思っている。しかもあぁた、こんな生ぬるいロマンスを読んじまって、もうなんともいいようがなく、負けなのだ。


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