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魔球の正体
 読書

魔球の正体
手塚一志 姫野龍太郎共著 ベースボールマガジン社

2001.10.29 てらしま

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 ここでいう「魔球」というのは要するに、最近ちょっと話題のジャイロボールのこと。ジャイロボールとはなにか、からその投げ方まで、わかりやすく解説した本。
 ジャイロボールというのは、つまり進行方向に平行な回転軸を持ったボールのこと。普通の投げ方では、ストレートはバックスピンしているわけだが、これとはまた違った飛び方をするらしい。
 要するに、いわゆる4シームの握りでこの球を投げると縫い目のない面を前面にしたまま進んでいくため、空気抵抗が普通のボールよりも少なく、ボールはあまり減速しない、というような効果があるそうな。
 この球の性質やらを1章をかけて理論的に説明してくれるのが、流体力学の権威だという姫野龍太郎。
 他のページはどうやら手塚一志によるものらしく、こちらは完全に実用面に立脚して書かれている。この2者の視点がこの本にはある。
 おもしろいのは、コンピュータシミュレーションなどの理論からの姫野の結論と手塚の経験が食い違っていた、というくだり。
 手塚はジャイロボールが「ホップする」と証言するのに対し、姫野は「落ちるはず」という。
 そもそも、普通のストレートというのはバックスピンがかかっている。このスピンのためにボールにはいくらか揚力が働き、まあ重力に従って落ちることは落ちるんだけど、無回転の場合よりも落ち方がゆるい、というのは私も知識として知っていた。フォークボールなどの「落ちる」球というのは、本当は普通に重力に従って落ちているだけなんだけど、ストレートに比べたら「落ちる」のである。
 ジャイロボールの回転にはバックスピン成分はない。だから、私もジャイロボールは落ちるに違いないと考えていた。
 実際、姫野龍太郎らが以前日経サイエンスに寄稿した記事を読んだことがあるのだが、そこにも落ちるとあって、そういうものなのかとずっと考えていたわけなのだが……。
 しかし、手塚の提案でこの球を実際に体験した姫野は、やはり浮いてくるという印象を持ったと書いてあるのだ。
 こうなると、実地の経験に勝るものもないだろう。スポーツの話なのだから、実際にバッターボックスに立った時の感触がもっとも重要なのは言うまでもない。
 真相はどうやら、始めに書いた「減速が少ない」というところと、軸が傾いているためいくらかバックスピン成分があるという点などにあるようだが、はっきりと答えは出ていないようだ。
 私に関していえば、なぜジャイロボールを見誤ってしまったか、その理由を考えると、無意識にボールの速度を一定としたモデルを考えてしまっていたことに原因があると気づく。確かに、普通のボールよりも抵抗が小さく減速が少ないボールは、浮いて見えるかもしれない。
 ものを考えるというのもなかなか難しいなあ、などと教訓的に思ってしまったりもしたわけである。


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