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魔術師メリエス
 読書

魔術師メリエス
マドレーヌ・マルテット・メリエス 古賀太訳 フィルムアート社

2001.5.31 てらしま

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 映画の黎明期に、特撮の元祖ともいえる技術を使って、多くの映像を撮ったジョルジュ・メリエスの生涯。付け加えるなら、世界で初めて、映画という技術を使って物語を語るという芸術を行なった人だ。
 ウェルズの『月世界旅行』を元にしたもので、地球を飛び立った宇宙船が、女性の顔を持った月に突き刺さる、という映像を見たことがないだろうか。あれを撮った映画監督である。最近では、NHKでも放送したアポロ計画のドキュメント『フロム・ジ・アース』の最終話にも登場した(原題は『From the Earth to the Moon』で、もちろんこれは『月世界旅行』の原題と同じ)。
 仕事をせずとも生きていける程度に裕福なパリジャンだったジョルジュが、奇術を披露する劇場を経営するようになり、映画が発明されるとそれに飛びつき、作品を作って自分の劇場で上映するようになり、しかしやがて破産してさびしい晩年を過ごすという、なんともまるで映画のような人生が時を追って語られていく。
 書いたマドレーヌ・マルテット・メリエスという人はなにしろ、ジョルジュ・メリエスの孫だ。したがって、他の誰も知らないほど詳しく彼の人生について調べられているのはもちろん。
 しかしこの著者もジョルジュ・メリエスの孫娘である。エンターテイナーの血とでもいうべきか、「ホントか?」と疑いたくなるほど、どうも明らかに脚色を受けているのだ。
 もちろんすべてのエピソードが、なんらかの実話にもとづいて書かれているのだろうし、まあ、脚色というよりは、私たちが井戸端会議でやるように、いくらかおおげさに話しているという方がいいかもしれない。
 勘違いしないでほしい。私は、大袈裟すぎる、と批判したいわけではない。むしろ私は、この本の価値はこの大袈裟なところにあると思う。
 話は違うが、NHKの『プロジェクトX』は面白い。それはもちろん、素材のおもしろさもあるが、それ以上に、あのナレーターの声とか、簡潔だが深みのある脚本とか、そういうところがあのおもしろさを形作っている。
 要するに、いかに作るかだと思うのだ。
 ジョルジュ・メリエスの生涯というのは確かに、これ以上ない素材だろうし、それを実の孫が書くとなればなおさらだ。さらにそこに、適切な脚色が加われば申し分ない。
 ジョルジュ・メリエスは不幸な晩年を送ったが、そういう意味では、この本は実に幸運だった。
 私がノンフィクションを読むのは、こういう本に巡り会うためなのだと思う。


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