2001.10.4 てらしま
いやおもしろかった。とはいっても、まだ始まったばかりなのだが。これからの展開にはかなり期待できる。
13歳の少女、台与(トヤ)は卑弥呼が死んで主のいなくなった大倭の巫女王として立つため、草薙の剣を手に入れ、卑弥呼の皇子、忍穂(おしほ)に嫁ぐ。というところから物語は始まる。
それからは、いかにも大河ファンタジーらしく、大倭の巫女王として内乱を抑え、敵国の侵略を退け、という話が続いていくわけなんだが……。
おもしろいのは、卑弥呼が実は天照で、台与は豊秋津師だ、という立脚点に立って(それを裏づける資料根拠も一応あるらしい)書かれているというところ。そのため、登場人物を見ていると邪馬台王朝というよりはむしろ古事記の物語といった感じではある。
自ら「古代史オタク」と名乗る作者の作品だけあって、古代国家の興亡の歴史には説得力がある。「邪馬台国東遷説」というのを元にしているらしく、これはもともと北九州にあった邪馬台国が奈良に遷って大和朝廷の基盤になったという説らしいのだが、物語も序盤の今はだから、舞台はその北九州あたりにある。そこにはニュースで聞いたことのある遺跡の名前が登場したりして、そういうところもなかなかおもしろいのである。
それになにより、古事記をテーマにしたということになればそれは我々日本人の根元に関わる物語なわけで、やはり興味を惹かれるものはあるのだ。
主人公の少女、台与は13歳という歳にも関わらず、始めからやる気満々だ。草薙の剣を手に入れるため、化生となった野猪と一人で戦う登場場面に始まり、王座につくために皇子である忍穂に押しかけ、妻となってしまったりするのである。もっとも、すぐにこの器の大きい皇子にほだされてかわいくなってしまうわけなんだが……。
この忍穂といい、敵国出雲で素戔嗚尊(すさのおのみこと)を倒し国主となった己貴(なむじ)といい、いい感じのキャラクターがけっこういるので、読み始めると一気に読めてしまう。
実は和製ファンタジーの中では、『十二国記』シリーズに続く傑作に育つ可能性もあるかも、とさえ、今私は思っているのである。