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Missing 神隠しの物語
 読書

Missing 神隠しの物語
甲田学人 電撃文庫

2006.01.24 04:14 てらしま

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 強く薦められて、まあそういえば気になっていたシリーズなので読んでみた。
 それで、いきなり冒頭の装飾過多な描写に「うわ」と思う羽目になったわけだけど。それもまあなんとか慣れた。こういうのは不思議と、慣れればなんとかなっちゃうものだし、逆に特徴として認めることができてしまうものだ。
 余談になるが、ライトノベルを読むときは、絵を無視することに決めている。
 絵にイメージを規定されてしまうのが本読みとしてなんか悔しいから、ということになるだろうか。というよりも、絵を見てしまうと読む気がなくなってしまうことがあるからだ。
 絵の力というのは白筋である。無酸素運動の、マッチョな瞬発力だ。一瞬でイメージを与えてしまうことができる代わりに、普通は、持続力がない。
 対して、もちろん、文章の力は赤筋である。有酸素運動、長距離ランナーの強さだ。ライトノベルであっても、最低30分間は持続できなければならない。
 マラソン選手にムキムキのマッチョはいない。逆に、マラソン選手の細い身体は百メートル走に向かない。
 表紙絵で買う、なんてことが常識といわれてしまっているライトノベルだが、そもそも、絵と文章というのは相容れないのである。
 しかし絵の瞬発力は強い。一瞥しただけで、印象が強く残ってしまう。だから、イメージに合わない絵を見てしまうと、文章のほうを読めなくなってしまう。
 というわけで、絵は可能な限り無視しなければ小説を読めないのだ。気に入った絵があるなら、小説とは別に挿絵ページを追うことにしている。
 わたしにとってこれは、そんなことを強く意識してしまう本だった。
 ライトノベルにはだいぶなれたつもりだったが、やはりまだラノベ読みの人たちと同じ読み方はしていないかもしれないなと実感した。
 といっても、文章が絵に合わないわけではない。むしろ、合っているのかもしれない。このパンク系の絵柄は、たしかに、装飾過多な描写に合っているだろう。ただ単にわたし個人の問題として、この絵を見ながら小説を読むことはできなかったのだ。
 あっけらかんと伝奇をやれてしまう、わたしにとってはうらやましいジャンルの小説だ。
 伝奇というのは非常に広い範囲の読者に受け入れられる素質を持っており、そこでこれくらいのレベルの文章があれば、たしかに人気出るかもなーと思う。
 ラノベらしい極端な造形のキャラクターが、まず目を引く。「魔王さま」と呼ばれる高校生なんて、なんとも、いかにもだ。
 しかし、このキャラクターたちはあまり、そういう風にはふるまわない。ドタバタのライトノベルから世界観を引きながら、それは冒頭だけで、あとは至極まじめに、キャラクターひとりひとりの、あまり明るくはない、屈折した生い立ちが語られる。
 このあたりは、ひょっとしたら失敗といっていい部分だと思うのだが、この過去の話に、キャラクターごとの特徴が際立たない。それぞれに違う過去を持っているのだが、小説が過去を語らなければならないほど大きくは違わない。
 ライトノベルでなければ。あるいははじめに「魔王さま」といってしまわなければ、これでもいいのかもしれないが。でもこれは電撃文庫。どうしても違和感を感じた。
 主にキャラクターのイメージを先行させるライトノベルの書きかたを志向しながら、たぶんそれに成功していない。そういっていいと思う。描写では絵をイメージさせることに重点を置くのがライトノベルだが、この作者はきっとそういう書きかたの人ではない。
 たぶん、装飾過多な描写も本来のものではない。むしろ、絵より心情を描写することのほうがフォームだと思う。
 わたしが絵を無視しなければならなかったのも、そういうことかもしれない。キャラクターの描写が、不自然にリアルすぎるのだ。そのせいで、イメージが立体になってしまい絵にならない。アニメ化できない。
 話のほうは、やはり神隠しとか怪談とか、こういうネタは興味を引く。それに対する屁理屈も深い洞察に裏づけられた感じがあるし、いちいち例をあげる説明のしかたもわたしの好みだ。そこは楽しく読んだ。
 少し、説明が上滑りしているところもあったが、嫌悪感を感じるところまではいっていない。
 これもあっけらかんと、メン・イン・ブラックが登場するあたりはさすがに少しどうかと思ったけど。でも、メン・イン・ブラックがクライマックスへの展開を牽引してしまうあたりの前までは、まあ楽しめた。
 なによりこの描写力と、洞察力に裏づけられた世界観があるのだから、これはもうなにをしてもそれなりにおもしろいわけである。ただし、それなりにだ。すべてがハマったときの強い輝きはないけど。
 欠点の多くはたぶん、シリーズが進んだいまは改善されているだろう。なんかそういう信用をできそうな気がする、ちゃんとした筋持久力と肺活量を持った小説家だと思う。ただし、ラノベ作家かどうかは怪しいのだ。
 こういう人は、続刊を読もうというより、このシリーズが完結したあとの次の作品に期待したい気がする。
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