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うさ恋。1 女なんか、嫌いだ~っ!
 読書

うさ恋。1 女なんか、嫌いだ~っ!
野村美月 ファミ通文庫

2005.1.15 てらしま

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 野村美月の最高傑作は『赤城山卓球場に歌声は響く』である。現在のところ、それは間違いのないところだ。
 そして、『赤城山~』はデビュー作でもある。生涯最高傑作が新人賞をとってデビュー、という作家はけっこういると思う。これは考えてみればあたりまえのこと。数ある応募作の中からおもしろい作品を選ぶのだから、それが誰かの生涯最高傑作である可能性は高いはずだ。
 野村美月も、それに近い。
 近い、と書いたのは、まだまだ可能性を感じているからである。例えばこの『うさ恋。』のウサギ娘の、見事なウサギっぷりはどうだろうか。この登場人物には間違いなく、デビューのころにはなかった技術が投じられていると感じるのだ。
 ただ、なんだかいかにも最近のエロゲーにでも出てきそうなキャラクターばかりというあたりには、正直閉口してしまう。ヤングアダルト文庫の読者層を狙ったという感じが、やはり息苦しい。
 野村美月の既刊を全部見まわしてみていうのだが、この『うさ恋。』がワーストである。
 だが、それでもわたしは一息に読めた。もうなんだか、いわゆる「萌え」という言葉のためだけに書かれたような、いろいろと不憫な女性ばかりが登場する作品はまったく読めないわたしなのだが。この『うさ恋。』も、冷静にいってそういう部類に入るわけなのだが、だ。
 ワーストだと書いたが、つまらないというわけではない。むしろおもしろいといってもいい。ただ、野村美月のファンはもっと高いものを求めているということである。
『うさ恋。』ならばあえて野村美月がやる必要はないのだ。
 新人作家は新人の勢いを持っているうちは、いわゆる「ニッチ」をついた、真似のできない小説を書いているわけなのだが、ひとたびトップに踊り出てしまうと、もはやニッチでいられなくなってしまう。これは読者から見ると非常に残念なことだ。
 しかし、作家にはさらに先がある、と思う。いろんな要請をはねつけて、あるいは消化して、なお独自のものを書きつづける人もいる。
 その意味で、野村美月はこれからが注目の人であると思いたい。


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