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赤城山卓球場に歌声は響く
 読書

赤城山卓球場に歌声は響く
野村美月 ファミ通文庫

2003.5.26 てらしま

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 それにしてもてきとーな話だった。悪ノリして友だちと話すバカ話を、ほんとに小説にしてしまったという感じである。しかしこの本のテーマはまさにその友情にあるわけで、そう思うと実はうまい気がする。
 大学で友だちと作った非公認の合唱サークル。単位を省みず友だちとの時間を過ごしてしまう主人公たち。彼女たちの、いちいちいきあたりばったりな行動ぶり。てきとーででたらめで陽気。たしかに大学ってこういうところだよねと思う。
 話はあまり紹介してもしかたないので書かないのだが、無軌道な主人公たちと同じように予想もつかない展開をみせる。それが楽しい。
 私が思い出したのは、同じように大学生の独特な世界を描いた『匣の中の失楽』(竹本健治 講談社ノベルス)だった。さまざまな若者が集まった無法地帯である大学は、映画で描かれる西部時代に似ている。『匣の中の失楽』はタイトルからも明らかなように、そうした世界の楽しさとその崩壊を描いた小説だった。使われた手法がややこしすぎて、テーマがかすんでしまっている気もしたが。
 卓球小説ではない。なにしろ主人公たちのサークルは合唱部なんだし。だから、スポ根も出てこない。スポーツを題材にした作品では、けっきょく最後に根性を説いてしまうことが多いが、それを「やらないことができる」ところが、野村美月の面白いところだ。
 発行された順序が逆だが『天使のベースボール』もそうだった。スポーツの楽しさを描くのだが、それが技術論や根性論に向かうことはない。読むたびに、いったいこの人はなにをやりたいのかと思う。
 基本的には、まじめなことはいわないバカ話だ。というか、デビュー作である本作はとんでもなくバカなのである。しかしそれが、狙ったあざとさを感じさせない。普通,発行順を逆に読んでしまうと、後から読んだデビュー作には拍子抜けしてしまうことが多い。最初に読んだものがつまらなかったらその作家の他の作品を読もうと思わないのだから、これは当然だ。しかし野村美月の場合はまったくそんなことがなかった。
 前に読んだのも面白かった。でも後から読んだデビュー作はもっと面白かった。思った以上にスケールの大きい作家なのかもしれない。


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