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オウン・ゴール
 読書

オウン・ゴール
フィル・アンドリュース 玉木亨訳 角川文庫

2002.2.2 てらしま

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 無職で離婚手続き中。そんな冴えない中年男が主人公。プレミアリーグに所属する地元サッカークラブから、チームを陥れようとする陰謀の調査を依頼され、「レイモンド・チャンドラーの書いたものなら、買い物リストにいたるまで、すべて読破していた」彼は、憧れの私立探偵となって愛する地元クラブを救おうと奮闘する。
 作品の雰囲気を紹介するため、作品中から少々引用する。
『「アウェイの試合での得点は二倍に数えられるのよ」
 女性がブラウスのボタンを外してくれと催促する文句としては、これまで聞いたなかでいちばんわかりやすかった。
 二時間後、彼女のベッドのなかで、わたしはいった。「選手について、いろいろ教えてもらいたいっていったのを、おぼえているかい?」
「男って、みんなおなじね」と、キャロルがいった。「セックスが終わるとすぐに、唯一、ほんとうに関心がある話題に戻っていくんだから。サッカーに」』
 つまりそういう話なのである。
 それこそどのページを見ても、英国人一流のユーモアだかウィットだかに富んだ文句がちりばめられており、教養のない日本人の立場からはときどき(しばしば)理解しづらい。だがそれがだんだん小気味よく感じられ、楽しくなってくる。
 サッカークラブの背後に絡むどす黒い金の世界。これはいかにもありそうな話だ。実際にモデルがあるわけではないだろうが、「どこかで聞いたことのある」ような陰謀のためにチームは窮地に追いこまれていく。
 その一方で貧しい労働者階級の人々の生活も描かれ、地元サッカークラブを中心としたイングランドの空気が感じられた。
 テレビ業界が牛耳る金欲のるつぼと化した地元クラブを嘆きながらも、やはりファンでい続ける人々。いかにして儲けようかと常に策略を巡らす株主、代理人。その中心にいる「アイドル」選手たち。
 そうした人々に会い、話を聞きながら、徐々に真実に近づく一方、探偵として成長していく主人公。
 サッカーの実情と、そこに漂う生活臭やノスタルジー。そうしたものがうまく活用された、冗談交じりのハードボイルドだ。
 サッカーにまったく興味がないとどうなのかわからないのだが、楽しく読んだ。


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