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グリーン・マーズ
 読書

グリーン・マーズ
キム・スタンリー・ロビンスン 大島豊訳 創元文庫SF

2003.1.22 てらしま

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 レッド、グリーン、ブルーと続く3部作の第2部である。つまりスター・ウォーズなら『帝国の逆襲』、指輪物語なら『二つの塔』。
 このページを運営している以上、紹介しなければならない作品というものがあるわけだが、これはその一つである。ずいぶん前に読んだのになんか書きそびれていた。私はこの作家のファンで、この作品はその中でもたぶんもっとも大きな評価を受けた作品なのだから、書評を書くページを作ってしまっている以上、紹介するのは私の責任なのだ。
 第1部で登場した世界観とキャラクターたちを題材にしながら、さらに新たなテーマを提示し、第3部の大団円につなげるのが第2部の役割だろう。その意味で、第2部らしい作品であった。
 成功した第2部の典型が、始めに書いた『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』だと思う。あれの場合、第1部は普通の英雄物語で、ルークは単純に悪と信じるものを倒せばそれでよかった。だが第2部になると、ことは簡単でなくなる。ルークには英雄としての責任がのしかかり、自分自身の残酷な運命を知ることにもなる。
 もっともスターウォーズの場合、第3部でそれをすっかり忘れてしまうのだが……。
 さて、『レッド・マーズ』は火星のテラフォーミングを描く物語だった。かなり乱暴にはしょっていえば、そういうことになる。100人の科学者を乗せた宇宙船が火星に降り立ち、荒涼とした赤い大地を緑に染めるため様々に奮闘する。上下2巻のほぼ全体がそれについての記述に費やされていたのだ。
 もっとも、その最後に大きな歴史の動きがあり、科学のユートピア(つまり単純化されたモデルの世界)は過去のものとなった。『グリーン・マーズ』は、その後の話ということになる。
 余談といえば余談だが、この作者の作品に共通するテーマとは「ユートピアとその終焉」だと思う。もっともロビンスンらしい小説は『荒れた岸辺』だと思っているのだが、これは簡単にいえばSF版トム・ソーヤで、少年時代の純粋さやらなんやらがテーマの中心にあり、つまりこれもユートピア小説なのである。
 ロビンスンは以後『ゴールドコースト』でも『永遠なる天空の調』でも同じテーマを繰り返してきた。そしてとうとう、少しの妥協もない、最高傑作の一つにするべく(たぶん)書かれた大長編が、この火星3部作なのだ。
『荒れた岸辺』に近いモチーフは、本作にも登場している。冒頭の、火星生まれの少年ニルガルの物語だ。初恋やら大人への憧れやらが描かれる中で成長し、その中で、生まれ育ったドライアイスの中の世界ザイゴートの崩壊を見る。そして大人になったニルガルは、前作の主人公であった「最初の百人」の一員となったのだ。
 冒頭のこの1章はつまり、前作『レッド・マーズ』を模倣し、繰り返す内容であり、また本作のストーリーを予告するものでもある。イノセントなドライアイスの下の世界は、火星の温暖化によって崩壊する。それを「空が落ちてきた」と表現するあたりは実にロビンスンらしい。
 火星の温暖化はそもそも人間が望んで引き起こしたことだ。火星にやってきた人間たちはみな、そのために尽力してきた。しかし、それが功を奏したはずの結果が、楽園を壊してしまう。
 この3部作のテーマそのものであるといっていい。途中、非常に退屈な描写が繰り返される部分が長く続くが、それも、大きな歴史の流れとその中の人間一人一人とを両面から描くために必要なことなのである。
 一人一人がそれぞれによかれと思って行動し、それが積み重なって歴史が動き、それがまた個人を翻弄する。それはようするにこの現実の姿と同じなのであり、火星の開発というSF的な主題の中でこれをやってみせることが、本作のもっとも特徴的な部分だ。
 SFとはつまりモデルであり、シミュレーションである。そのことを、これほど強く感じさせる小説はない。もっともSFらしいSFの一つといえると思う。
 モデルであるということは、どこかで問題を単純化し、なにかに目をつぶっているということでもある。これは、およそすべての物語がやっていることのはずだが、SFが嫌いな人はなかなか認めようとしてくれない。
 本作の場合、もっとも大きな単純化は「まず人類が火星を目指した」というその部分だ。『レッド・マーズ』の冒頭、すでに最初の百人は宇宙船で旅をしている。以後も、「火星をテラフォーミングする」という目的自体に疑問を投げかけられることはあまりない。
 ここがつまりSFであり、SFになってしまっている部分ともいえる。始めからSFファンの人は読むと思うが、そうでない人が読んでくれるかといえばわからないのが、残念でならない。
 人類が宇宙へいくことを信じていない人や、そうすべきでないと思っている人には、この厚さはちょっと読めないだろう。特に、とてつもなく退屈な描写の多いこのシリーズである。
 さて、ところで、スターウォーズではエピソード4が一番好きだ。しかし世間ではわりとエピソード5『帝国の逆襲』がいいという人が多い。事実私の場合も、好きなのはエピソード4だが、もっとも印象に残っている場面やセリフは『帝国の逆襲』のものだ。
 火星3部作においても、私はやはり『グリーン』より『レッド』が好きである。3部作の第2部というのは新たなテーマが提示され混沌としてくる上、第3部に繋がるために話が完結しないところがちょっと私の好みに合わないのだろう。
 しかしそれだからこそ印象に残るのが第2部なのだろうと思う。たぶん『グリーン・マーズ』もそうなる。まあ『ブルー・マーズ』まで読んでみないことにはわからないのだが。早く出ないかなあ。


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