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ドイツ年間ゲーム大賞2012ノミネート 主にキングダムビルダーの話
 ボードゲーム 日記

 今年もノミネートが発表されたとのことで。

 しょうじきな感想をいえば「ぱっとしないなあ」だ。
 ドミニオンよりあとのボードゲームに漠然と感じていることなのだが。水準以上のレベルのものはとても多いのだけど「すげーこれ」と思うものがない。
 そんなところが反映されてかどうか。差がない中からどうにか選んでて、そうすると外野からは予想できない結果になるなあ、というのは去年も感じたことだ。
 こうなるともう本当にさっぱりわからないし、わたしが予想なんかしても無意味だ。
 だからそんな話はおいておこう。
 個人的に話したいのは、ノミネートされた作品のひとつ『キングダムビルダー』のことだ。

 キングダムビルダーというのは『ドミニオン』のデザイナー、ドナルド・ヴァッカリーノが、ドミニオンの次に作ったゲームだ。
 ゲームの内容紹介は省くけど。
 先に書いておくとこのゲーム、わたしの評価は低い。去年の自分的クソゲーオブザイヤー候補作に挙げかけたくらい(実質挙げているという話もある)。
 でもそれは個人の評価の話。おもしろいという人はいるし、それはそれでわかるところもある。
 ところでこれ、わたしが期待したよりは話題になっていない。
 あのドミニオンの、あのヴァッカリーノなのに。よかれ悪しかれ、もっと話題になってもいいのだが。
 悪くないが語るほどのこともない佳作、ドミニオンほどプレイヤーの心に残らないゲームというのが多勢の評価だったのではないか。そう思っている。
 いやじつは、ウェブを検索すればプレイレポートが多くあるんだから、かなり遊ばれてるほうなのだけど。でも「ドミニオンのデザイナー」という看板にわたしが感じていた強烈な輝きからみれば、少し物足りない。
 そんなことを思っていた。
 気の毒だとは思いつつも、ドミニオンと比べてしまっているのだ。
 下世話な話ではある。

 さて。しかし、そのキングダムビルダーが、ドイツ年間ゲーム大賞にノミネートされてしまった。
 なんてこと。

 このゲームの評価は低いと書いたけど。でも、評価しているところもある。それは、デッキ構築ゲームではないことだ。
 考えてみればあたりまえで。
 なにしろ、ドミニオンはまだ現役で拡張が作られ続けている。それなのに同じ作者が同じジャンルのゲームを作ってどうする。営業的な問題としても、作らないだろという気はする。
 というわけでデッキ構築ゲームではないけれど、そのいっぽうで、ドミニオンからひきついだ要素もある。やっぱり同じデザイナーのゲームだなあと思うところ。
 ドミニオンからデッキ構築を抜いてなにを残したか。そっちが重要だ。
 ドミニオンがなぜヒットしたのか、それについてのデザイナーの分析が、キングダムビルダーには表現されているのではないか。ヴァッカリーノはドミニオンをこう見ているというものが。
 もっとも大きな要素はもちろん「毎回違うゲーム」だろう。
 ドミニオンは、あのランダムマーケットが最大の特徴だった。あれがあるから何度でも遊べ、話題が長続きしている。
 あと、たとえばゲームがぶっ壊れてしまったとしても、プレイヤーが勝手にランダムマーケットのせいにしてくれるというのもあるような。おもしろければゲームのせい、つまらなければサプライのせい。ドミニオンの評価は低下しないのだ。
 ランダムマーケット以外では、たとえば手札。
 手札からカードをプレイして、同じ色の土地に自分のコマを置くのだけど。この手札が、たったの1枚しかない。大胆なルールだ。
 これは明確に狙いがわかる気がする。 「プレイヤーの選択肢を減らす」だろう。
 マップ上にコマを置くゲームなのだけど、なにしろマップは広い。選択肢が多すぎる。多すぎる選択肢はプレイヤーを悩ませ、プレイ時間を長くする。だからそれを減らすために、カードで制限している。
 しかも、選択肢の数に目標数があったのだろうと想像している。たぶん「多くても10を大きく超えないくらい」というところではないだろうか。
 その目標数を達成するために手札の枚数を調整したら、1枚になったんじゃないか。そんな風に思う。いや本人じゃないから知らないけど。
 手札を手番開始時ではなく終了時に引く、というところも、短時間化という目的について一貫している。他のプレイヤーの手番の間に考えておけという意味だ。これもドミニオンから引き継いでいる。
(『クォーリアーズ』という、かなり臆面もないドミニオンクローンがありまして……。あのゲームはどういうわけか手番開始時に引く。というのはまた別のお話)
 手札を使う意味のもうひとつは、乱数。
 乱数はもちろん必要だ。負けたプレイヤーが、人間として劣っているのではなくたまたま運が悪かっただけさと思いこむために。
 そういうふうに、意図がいちいちなんかわかる気がするなと。
 そして、そのすべてが正しく理に適っている。そう思う。
 さすがはドミニオンのデザイナー。あるいは、デザイナーなんだからあたりまえかもしれない。

 でもわたしの評価は低い。
 それぞれの意味はわかるんだけど、おもしろさに寄与していない気がするというか。どこか魂がこもっていないというか。
 やっぱり分析的すぎるのか。一番大事なプレイヤーの心を分析できなかったというところか。
 いや、観念的な物言いはよくないから自分の考えを書いちゃうと。
 プレイヤーはゲームに物語を求める。ゲームデザイナーはシステムだけではなく、ゲームの展開が形作る物語もデザインしている。
 ドミニオンはランダムサプライでゲームが劇的に変わるのだけど、じつは物語のあらすじはあまり変わらない。銀貨などでお金を増やし、それで勝利点カードを購入する。勝利点カードがデッキに入ると動きが鈍り、他のプレイヤーはその間に追いつけるかもしれない。そうして、固定されたゲーム終了に向かう。
 起承転結のうち主に承と転くらいは、サプライに現れたアクションカードで大きく変わるだろう。けど、最初と最後はそれほど変わらない(最近はけっこう変わるけど)。
 キングダムビルダーは、あらすじからランダムにしてしまっている。それが悪いわけではないが、さすがにそれで物語を表現するのは難しかっただろう。
 あと、手札だ。
 ランダムに1枚引くというのは、均質な乱数だ。どのカードを引く確率も変わらない。予想ができない乱数になってしまう。そういう乱数は、運ゲー感を強める。
 また、選択肢の数はマップ上にあるかもしれないが、プレイヤーがすることはカードのプレイだ。そこが1枚では選択がないように見えてしまう。構造上はマップで選択してるんだから問題ないのだが、プレイヤーの意識上もそうだろうか。
 とかそのあたり。

 というわけで、わたしはこのゲームを評価していないのだ。
 でも、嫌いかというとそうでもなかったりするんだけど(笑)。だからだからこんな記事を書いているんだし。
 じっさい、このゲームを好きな人はいる。わたしの友人にもいる。けっこう、評価が分かれている。

 そんな愛すべきキングダムビルダー。
 まだ遊んだことがない人がいるのなら、ぜひ遊んでみてほしい。せっかくのノミネートだし、デザイナー名も話題性あるし。


 追記。
 ヴァッカリーノがこのゲームについて話しているインタビュー記事がありました。
 あとで捜そうかなーとか思ってたけど(いや先に捜せと)。

 上に書いた憶測の中で違うのは、ドミニオンを元に作ったわけではないというところ。デッキゲームを作ろうとしていたというところ。
 なるほどそういう経緯があるから、1枚なのに手札を使うのかなー。などと思ったのでした。
 じっさい、1枚の手札というのはやはり歪んだルールだ。別に悪くはないけど、ベストじゃない感がある。
 あとづけで考えるなら、手札を使わず手番開始時にサイコロを振るのが自然だったんだろうけど、もちろん長所と短所がある。
 だけど1枚の手札というルールを選んだところに、このデザイナーの特徴が表れていたりするのかなあと、読んでて思ったのでした。いいか悪いかではなく。


ドイツ年間ゲーム大賞2012ノミネート 主にキングダムビルダーの話を