すぐそこに滝がせまった川のまわりに、なぜか宝石がたくさん落ちている。轟々たる滝の音が聞こえている激流に、いまボートで乗り出そうとする者たちがいる。
なんといってもこの舞台設定がいいじゃないか。まあ多少ムリヤリな感じもあるけど、これだけでスリリングな場面が予想される。
アクション映画で、手を変え品を変えいろんなシーンが出てくる、あれと同じようなものである。カーチェイスとか、レイダースの電車とかトロッコとか、マトリックスのエージェントスミス100人でもいい。とにかく現実的じゃなくても楽しくてスリリングならいいのである。
例を挙げるのに本物のB級アクションは適さない(定義上マイナーなので)わけだけど、なぜか吊り橋の上での戦いとか、なぜか火が吹き出してたりとか、飛行機の翼の上とか車の屋根の上とか、いろいろあるじゃないか。確信犯のB級映画ほど無茶な場面があって楽しいものだ。
ああいうのと同じで、滝というのは、一目でわかるわかりやすさと無条件のスリルがある。「ファイトー」「いっぱーつ」である。
それを表現するために、用意された舞台が、これだ(写真)。
非常にわかりやすい。
ボードは裏返した箱の上に置く。それで高さができる。なるほど、確かに滝だ。納得せざるをえない。
川には透明で丸いプラスチックの板を並べてある。その上に、ボートを乗せる。川が流れるときはプラスチック板を上流から押してやる。一番下のタイルは滝に落ち、もちろん上に乗っていたボートも落ちる。これはもう、まさに比喩でもなんでもなくほんとに落ちる。
この雰囲気だけで勝ったようなものだが、ゲームシステムもスリリングにできている。
移動はダイスではなく、移動力が書かれた札をまず全員が裏向きに提示しておこなう。ここで出されたもっとも小さい数字が、同時に川の流れの速さになる。速いかもしれないし、遅いかもしれない。
ボートは一番上流のマスから川に入り、宝石をとってまた上流まで上ってこなければならない。これがまた、いくら漕いでも流れに押し戻されたりする。
加えて、せっかくボートに乗せた宝石が盗まれたりもする。それを回避するためには、さっさと上陸してしまうか、あえて下流に留まるかである。
とにかく、すべてが「滝」というテーマをいかに盛り上げるかという一点に集約されているのだ。
ただし、実は乱数を一度も振らないので、見た目からは意外かもしれないが一番考えた人が勝つゲームである。だいたい終了前3ターンくらいには詰んでいるので、終わりかたは少し拍子抜けかもしれない。残念な点といえばそこか。
ところでこれ、ドイツ年間ゲーム大賞をとったらしい。まあ別におもしろいからいいのかもしれないけどさあ……ジャン・クロード・ヴァン・ダムとかドルフ・ラングレンとかウィル・スミスとかがアカデミー賞を獲っちゃったー、みたいな空しさがあるような。