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南極大陸
 読書

南極大陸
キム・スタンリー・ロビンスン  赤尾秀子訳 講談社文庫

2006.06.27 22:41 てらしま

amazonamazon

 うーん、おもしろい。おもしろいけど、どこがおもしろいんだろう……。とにかく非常にロビンスンらしい、あーまあ、いってみれば死ぬほど退屈な話なんだが、しかし、なぜかおもしろい。ていうかもう、ただたんに小説がうまいんだろうなあ。
 南極に暮らす研究者たちの話である。南極というのは要するに、科学者しかいない世界だ。科学のモデルの世界、つまりユートピアなのである。
『レッド・マーズ』『グリーン・マーズ』と同じである。ひたすら詳細に世界観を描きつづけ、その中で暮らす人々を描きつづける。
 紹介する以上あらすじを書いたほうがいいのかもしれないが、しかし、どうにも意味を感じられない。
 話がつまらないとはいわないが、特別すごいわけでもない。しかし、読んだあとの印象は、言葉で紹介されたあらすじではわからないものがある。
 この得体のしれないすごさはまさにロビンスンそのもの。それこそ『レッド・マーズ』『グリーン・マーズ』を読んだ人には想像できるはずだ。
 作者の意図だとか、キャラクターがどうとか、そういうものを超えた、本物の小説を書ける人だと思う。
 登場人物に共感する必要もない。そこにある世界を見て、なにも感じない人間はいない。それだけのことなのだ。
 人間が世界を世界として認識するために必要なものはなんなのか。おおげさにいえばそういうことだ。たぶん物語とか、適切な情報量とか、魅力的な文章の力とかだろう。
 これを表現する方法は作家しかしらない。それも本物の作家でなければ。
 小松左京流にいうなら「宇宙にとって物語とはなんなのか」ということになるのだが、それはちょっとおおげさになりすぎかな。

南極大陸』はそれほど未来の話でもない。ちょっと状況が違っていれば、いますぐに現れてもいい世界だ。でもそんな近い未来に、火星と同じ科学の楽園があるわけで、この身近さというかリアリティというか、そういうものがこの話の特徴である。
 やはり、宇宙の厳しさと比べれば、スケールは少し小さい。いまどき、これほど近い話をSFと呼んでいいのかどうかにも疑問を感じないでもない。
 よく考えるほどどこがいいのかわからなくなるんだが、それでも個人的には、火星三部作の入門版というくらいの位置づけにある。ベストとはいわないが、ロビンスンらしさと芸が充分に堪能できるのだ。
「萌えるよ!」とか「熱いぜ!」とか、そういうのもいいんだろうが、でもほんとうは、そんなわかりやすいものではない。ロビンスンはそういう領域で読者に世界を認識させるSF作家である。そろそろ職人芸といっていいかもしれない。
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南極大陸を