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占星師アフサンの遠見鏡
 読書

占星師アフサンの遠見鏡
ロバート・J・ソウヤー 内田昌之訳 ハヤカワ文庫SF

2001.6.11 てらしま

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 以前古本屋で第一刷を見かけたときに、始めの一章くらいとあとがきだけを読んで、表紙が大きく破けていたために買うのをためらっていたらなくなってしまった、という苦い経験がある。今にして思えば、なぜあのとき買っておかなかったのか……。
 そんなことがあり、ずっと読めずにいたのだが、ついに先日、ハヤカワが第二刷を出してくれたのである。数年来の念願が叶って、ようやく手に入れることができた。
 それにしてもだ。こんなに面白い話があるだろうか。遠見鏡を覗いて太陽系の運行に思いを巡らせる恐竜少年版ガリレオが、「神の顔」巡礼のために、勇敢な船長の船に乗って大海原に旅立つのである。「どうだ!」と言わんばかりの、とにかくソウヤー自身が誰より楽しんで書いたに違いないと思わせるような物語なのだ。
 少年の成長話の定式というか、そういうものの面白い要素をこれでもかと詰め込んだ話だ。つじつま合わせは後で考えるとして、とりあえず面白いものを詰め込んでみるという、ソウヤーのソウヤーらしい部分がよく表れた、という意味では、後の『スタープレックス』にも通じるものがある。
 そうやって、一見少年の成長を描いたファンタジーのように見せながら、実はここはあの星だったことが判明したり、主人公たちの種族キンタグリオの肉食恐竜としての性質のことがいろいろと描かれたりとか、ハードSFとしての部分もしっかり抑えられている。いやもちろん、いつもどおり「本当か?」と疑いたくなるようなことも多く書かれてるけど、面白ければ少々の間違いも許されるだろう。
 だが、不満もあるといえばある。後のソウヤー作品と比べて、いくらか完成度が低いと思うのだ。話が持つ強烈な輝きは誰もが認めるところだと思うけど、それが制御できていないという感じが読後感として残ってしまっている。まるで日本の、ヤングアダルト文庫の新人賞作品を読んだかのような感覚なのだ。もちろん、そこがいいところでもあるんだけど。
 いや、待てよ。ということは、これは、普段SFを読んでいない人たちに青背を勧める絶好のチャンスなのでは?


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