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空色勾玉
 読書

空色勾玉
荻原規子 徳間書店BFT

2005.5.29 てらしま

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 いわれてるほどハイファンタジーって感じでもなく、ましてや、装丁とルビの量から想像するほど児童文学ではない。
 じゃあなにかって……少女マンガ?
 荒唐無稽なことがあたりまえのように起こり、主人公は少女で、かっこいい男の子が次々といいよってきて、いろいろあるんだけど話を牽引するのはあくまで主人公の色恋であって、あいや、そういうものを批判しているわけでは決してなく、むしろどちらかというと好きなわけだが。
 評判もわかる。おもしろかった。
 ただまあ、少しナイーブすぎですぐ泣く主人公は、デビュー作らしい未完成さを表していると思う。だいたい人が泣く場面というのは、若い作家が書いてしまうことが多い気がしてるんだが、これはよくないと思う。ひとたび泣いてしまったらもうキャラクターはキャラクターでなくなってしまう。子供が泣くのは自分の主張を通すためではなく、ただこちらを見てほしいからだろう。だから、泣くキャラクターに読者は必ずしも共感できない。
 意地でもキャラクターを立たせることの意味を知っているベテランの小説では、キャラクターは泣かない。もっとも、そういうベテランはもう泣くほどの感性が枯れているのかもしれないが。
 それにしても、おもしろかったのである。考えてみれば筋自体にはいろいろ問題があるわけだが、それでもしっかりと引きこむ力がある。二律背反や危機が訪れ、それが意外とあっさり解決したと思ったらすぐに次の危機がある。それをくりかえすうちいつのまにか読み切っている。まさに、昔のよくできた少女マンガの世界だ。
 日本の神話の世界の話である。
 神は本当にいて、奇跡は本当にあって、魔法もあって、人間はそういう世界を当然として生きている。主人公はそんな神の一人である月代王(つきしろのおおきみ)に憧れる村娘。ほんとに不老不死の光の神の軍団と、死を司る闇の軍団が戦争をしていて、主人公は闇の巫女である「水の乙女」でありながら光に憧れてみたり。いろいろと複雑な事情の運命の人に出会ってみたり。
 というか、半分くらいまで読んでやっとそういう話が判明するわけで、これはやはり欠陥があるというべきだが、読めるんだからしかたないってものじゃないか。
 ベテランの小説ではないと書いたが、そうでなければできないこともある。つぎつぎと状況を動かすこのエネルギーがそうだ。たしかに主人公は泣くし、わたしは泣く主人公は好きではないのだが、しかしこいつは最終的に泣くことに頼らない。だからまだ許せる。むしろそういう感情を正面からぶつけるパワーには利点もあるわけだ。
 これはデビュー作なのであり、大いに先を期待させるものなのである。もちろんこれに続く『白鳥異伝』と『薄紅天女』も読むよ。


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