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非対称ゲームの真価
 日記

「非対称ゲーム」という言葉がある。一般的な用語かどうかは知らないけどわかりやすいから使う。ボドゲで使われる場合はおおむね「初期条件がプレイヤーにより違うゲーム」くらいの意味だ。
 BoardGameGeekでは、Variable Player Powersなんてタグがあったりもする。
 はっきりと非対称を意識し成功したゲームの例としては『世界の七不思議』が挙げられるだろう。もっと最近で印象深いのは『テラミスティカ』だ。他にも『ネイションズ』『スマッシュアップ』などなど、多数の例がある。
 特に最近多い気もするのだけど。歴史的な話をするなら『コズミックエンカウンター』を挙げないわけにいかない。あるいは『シヴィライゼーション』などもある。つまり、新しい話ではない。むしろ歴史は古い。
 ウォーシミュレーションゲームでは非対称が当たり前だ。そしてウォーシミュレーションはおおむね、いまボードゲームと呼ばれているムーブメントよりも古い。非対称ゲームの隆盛というのが現在あるとしたら、それは回帰だともいえる。

 先日『ネイションズ』を遊んだときに思ったことなのだけど。
ネイションズ』にはプレイヤーボードがあるのだけど、これが両面仕様になっている。A面は全プレイヤー同じ。B面はそれぞれ違う、という、よく見る奴だ。
 そういうゲームはたいていそうだが、A面は初心者向け、とマニュアルに書いてある。特殊能力などがないため、ルール説明が多少省けるからだろう。わたしたちも、最初はA面で遊んだ。
 この初プレイは序盤に失敗してボロボロだったのだけど(笑)。これはじっさい、自分の序盤の動きが間違いだった。初プレイのゲームにはそういうことがある。特に拡大再生産するゲームでは、序盤の1手が大きく効いてくる。1ラウンド目に打った手がたまたま正解だったら勝つし、そうでなければ負けるという、運に左右される面が必ずある。このゲームでは、序盤に必要な資源生産力が確保できず、トップとの差は開く一方になった。
 人はたいてい、勝ったゲームのほうがおもしろい。しかし初プレイで勝てるかどうかは、まあある程度は運だ。つまり、ゲームがおもしろいといわれるかどうかは単純に運で決まっている可能性があり、意識していないとそれに振り回される恐れがある。1回だけ遊んで負けたゲームへの評価は信用できない。たとえ自分の感想であっても。
 少なくとも、全員が同じ条件のA面ではそう。特に、ミスをしてへこむと二度と逆転できないゲームだけに(ミスをしなければそんなに差がつかない)。危険なゲームだなと思った。
 しかし、B面ならどうだろう。B面はそれぞれに違う能力を持っている。B面で負けたのなら、とりあえず「この文明弱い」といえる。これなら、文明が弱いのであって、負けたゲームがつまらないわけではない。
 あるいは、自分のミスであることに気づくかもしれない。「この文明はこう使うんじゃないか」という感想戦が行なわれるだろう。そこで話されるのは文明の攻略法であり、このゲームがいいか悪いかという話ではない。プレイヤーの心理の動きとして。非対称ゲームには、そういうバイパスを作る機能がある。
 それ以上に。各文明固有の特徴は、プレイヤーの道しるべになる。他の文明と比べ、自分の文明のどこが強くどこが弱いのか、それがわかる。欠点を補うにしろ長所を活かすにしろ、文明の特徴はプレイの指針になる。初プレイでなにをしていいかわからない状態になりにくい。
 そういう意味で。ネイションズは最初からB面で遊ぶべきだと思う。ゲームデザインの話として、A面の存在が失敗だという気がする。

 というか、1回目のゲームでそう思った。
 そこで、2回目はB面で遊んだ。1ゲーム目の教訓が活き、僅差の好ゲームになった。2ゲーム目のほうがよりおもしろかった。
 もちろん、これはB面だからではない。1ゲーム目の教訓があったからだ。最初からB面だったらどう感じていただろうか? それはもうわからない。違うことを感じたかもしれないし、あまり変わらなかったかもしれない。このゲームに関してはもうわからないというのがじっさいの話なのだけど。

 同じような例で思い出すのは『アグリコラ』だ。アグリコラは通常、たくさんのカードが配られてからゲームを開始する。あれも非対称ゲームだ。
 しかし。初心者向けの「ファミリールール」ではそのカードを使わない。それでは非公開情報が極端に少ない、むしろガチゲーになる。とはよくいわれる。
 あの手札には大きな意味がある。手札のカードを活かすためにどうしたらいいかを考えそれに沿ってプレイすることができる、つまり、プレイヤーの道しるべとなることだ。手札がある通常ルールのほうが軽い印象になるのはそのため。それを、省いていいのだろうか。
 確かに、数百枚もあるカードを把握するのは手間がかかる。ルール説明も時間がかかるだろう。それになにより、あのカードは自分にしか見えていない。だから同卓のプレイヤーが教えるということができない。基本的なルールもわからないのに各カードがどう機能するのか、想像するのはあまりに難しい。
 それでも、アグリコラは最初から通常ルールで遊ぶべきなのではないか。むしろ初心者だからこそ。なんの道しるべもないファミリールールでは途方にくれてしまうのではないか。

 テラミスティカに「ファミリールール」があったとしたら、どうだっただろう。能力のない、全員同じプレイヤーボードが配られるのだ。たしかにルール説明の手間は省けるだろうけど、これほどリプレイされるゲームになれただろうか。
 穴のないゲームではないのだ。「差がついたら逆転できない」「重い」「テーマ性が薄い」など、いえる言葉はたくさんある。しかしそう感じないとしたら、種族差があるからではなかったか。プレイヤーの目がゲームの欠点ではなく種族別攻略に向かい、リプレイ欲求になるのではないか。

 非対称ルールが上級者向けというのは、間違ったデザインなんじゃないか?
 あるいは、非対称ゲームのゲームデザイン上の価値は、現状でもまだ過小評価されているのではないか。
 などと考えた。

(反対の話をするのもおもしろそうだ。つまり「騙されるな、非対称はゴマカシだ!」)


のっくあうと -2014/01/15 21:46
非対称ルールの考え方にも幅があるのかもしれませんね。

おいらは netrunner は非対称ゲームだと思いますが、ウォーゲーム(ドイツ軍とソ連軍の違い)アグリコラ(手札が違う)やコズミックエンカウンター(特殊能力が違う)あたりは同じルールの枠内なのではないかと思います。
たとえば、手札が違うのも含めるとトランプを使ったゲームの多くは非対称ルールになっちゃうのでw

アグリコラのファミリールールについては、カードの特殊能力を用いないことでゲームの進行を覚える、ルール説明の手間が省ける、特殊能力を意識せずに一度やってみる、くらいの意味ではないかと思います。

ディセントや惨劇Rooper あたりの親プレイヤー兼レフェリーなゲームも非対称ルールかな。


てらしま -2014/01/16 02:38
 まあ言葉の定義はいろいろありそうですが、ここではこういう意味で使ってるくらいのところで。たしかに、例えば手番順があればみんな非対称といいはじめるとなんでも含めちゃうし、どこまでとなるとめんどうな話になるんですよね。
 おっしゃっているのはルール自体が明らかに違うものという意味かと思います。スコットランドヤードあたりがボドゲだと有名ですかね。

 アグリコラのファミリールールはそういう意図なんだろうと思いますが、重いし……。あれでアグリコラの楽しさがわかるのかどうか怪しい気はします(笑)。


max747 -2014/01/19 22:33
考察の方向性としては首肯するところですが、アグリコラについては最初から通常ルールでやってよいかどうかの判断が難しいところですね。
カードに書いてあることの意味が分からない、という状況も多々発生すると思いますので。
経験者によるフォローがあるという前提つきで、
1. 経験者からインストラクションを受けながらラウンド7(全体の半分)までプレイする
2. カードありで最初からやりなおす
がいいと思います。


てらしま -2014/01/20 15:28
 どもです。
 たしかに理想はそうですね。最初はカードの意味わからないだろうし、いきなりだとパンクしてしまいそうで難しいところです。
 7ラウンドというのが、やりこんでる方のリアルな意見という感じがしました。インスト論でよく、わかりにくいゲームは1ラウンドやってみようというのがありますが、たしかにそうなんですよね。そこまでひとつのゲームにつきあってもらえるのかなど、それはそれで難しい面もありますが、手間を惜しんじゃいけないという話かもなと思います。


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