話題のゲーム。これはじっさい、かなりおもしろい。文句なく、とはいわないが、傑作だ。
似たゲームを挙げるなら『エクリプス』だ。ワーカープレイスメントの流れなんだけどちょっと違うゲームシステムが同じ。プレイヤーボードを使った拡大再生産の仕組みも、種族の個性をプレイヤーボードで表しているところも同じ。直接の関係はないのだろうけど『エクリプス』の完成版という印象がある。
テーマはいわゆるファンタジー。魔女とか巨人とか、いろいろな種族が登場する。
「ハーフリング」なんてのもいる。これはD&Dで「ホビット」が権利上の問題で使えなかったため代わりに使われていた種族名。それが登場するような、つまり指輪物語を源流とし、アメリカのRPGで形作られていったいわゆるファンタジー世界、がテーマということになる。
そんないろいろな種族が、それぞれに土地を開拓して大地に広がっていく。そんな話。
←これが盤面。地図だ。7種類の地形がある。
そして、種族。14種類入っている。種族はそれぞれ得意な地形というものを持っていて、その地形にしか開拓地を作れない。
では得意でない地形はどうするかというと、スコップで開拓して得意な地形に変える。
ぜんぜん関係ないのだけど『宇宙戦艦ヤマト』というアニメを思い出す。敵のガミラス星人は放射能に汚染された環境でしか生きられない。本星が滅亡しようとしているガミラス星人は、地球を新たな居住地と見定め放射能爆弾を使って放射能まみれにする。
もちろん地球人は放射能の中では生きられない。そんなわけで、地球人とガミラス星人は相容れない存在として全面戦争するしかない。
いやこれはまったくの余談で。このテラミスティカではそんな戦争になることはなく、むしろ協力しあうのだけど。
プレイヤーボードは7枚。両面仕様になっていて、全部で14種族だ。
ボードの右上にある地形のリングの、一番上にあるのが得意地形。「ハーフリング」の場合は、茶色の土地だ。これはボードと駒の色でもある。
ハーフリングは茶色の土地にしか開拓地を建てられない。地形を変更しなければならないのだけど、そのために必要なコストもここでわかるようになっている。地形のリングで、対象の地形から得意地形までの間にあるスコップの数だけスコップを支払わなければならないというわけだ。
スコップは労働者を支払うことで作れる。最初は労働者コマ3個で1スコップだが、この効率を上げることもできる。
さて、開拓とか拡大再生産とかの例に漏れず、このゲームにもいろいろな資源が登場して、それらを生産したり変換したりする。このゲームに登場する資源は4種だ。
労働者コマは、開拓地を建てることで増える。プレイヤーボードから開拓地コマをとり、ボード上に置く。そうすると、プレイヤーボードでいままで開拓地コマが置かれていた場所に労働者コマが増えるアイコンが書かれている。このへんもエクリプスと同じ感じ。
お金とパワーは、開拓地を交易場にパワーアップすると増える。ただしこれをやると開拓地がプレイヤーボードに戻ってきてしまう。労働者の生産力は減ってしまうのだ。とはいえお金も大事。このへんの兼ね合いも考えないといけない。
パワーというのは特殊な資源だ。パワーを得ると、プレイヤーボード左上のパワーチャート上でパワーコマが動く。Ⅰのマスにパワーコマがあれば、それをⅡのエリアに移動する。Ⅰのエリアにコマがなければ、ⅡのエリアからⅢのエリアに移動する。パワーはⅢのエリアに置かれて初めてアクティブになる。パワーを使うと、パワーコマはⅢのエリアからⅠのエリアに戻る。というわけだ。
このパワー。とてもいろいろな用途に使えて便利なのだけど、なにしろ高い。パワーを使うのか労働者を使うのかというのは、種族によっていろいろ考える。
もうひとつは、司祭。これは、交易地を神殿にパワーアップすると増える。司祭は労働者としても使える、労働者の上位互換だ。さらに、宗教チャートに送ることで信仰力を上げたり、スコップや船の技術開発に使ったりする。
さらに、神殿を建てると宗教タイルがもらえる。これはいろいろなものがあり選べるのだが、どれも強力だ。
建物を建てていくと、それはやがて「都市」になる。都市になるともらえる都市タイルは、強力な得点に加えなにか恩恵がついてくる。
交易地と神殿は、それぞれさらに強力な建物にパワーアップできる。
交易地からパワーアップする砦は、種族ごとに大きく性能が違う。神殿から成長する聖地は「都市」を作るときに恩恵がある。
特に砦は、種族ごとにまったく異なる。とにかく一直線に砦を建ててしまいたい種族もいるし、それよりも神殿を早く建てたい種族もいる。
建物をどう建てるかで生産される資源が変わってくる。種族ごとの戦略に合わせ、なにをいつ建てるかというのが大きなポイントになっている。
得意地形が違うため、種族同士は基本的に相容れない。でもだからといって全面的に殴りあうかというとそうでもなく、むしろ協力しあうゲームだ。そのあたりを表現しているのが、交易地のコスト。交易地は、他の種族の建物に隣接していると安く建てられる。
さらに、自分の建物の隣に他の種族の建物が建つとパワーがもらえる、というルールもある。
逆に、直接他の種族を攻撃する手段というのはない。ネガティブな要素が少なく、そういう意味でのストレスが少ない。気持ちよくプレイできるのだ。
わたしが特にいいなと思っているのはそのあたりだ。長時間かかるゲームなので、インタラクションが強すぎると辛いことになりやすい。いわゆるキングメイカー問題などが発生してしまうと、せっかくそれまでがんばった時間が無駄に感じられてしまう。
特に、プレイヤーを指定した「攻撃」があると苦しい印象が強くなる。
じっさい、そのあたりにエクリプスの弱点はあったように思う。あのゲームにも、お互いが得をする同盟というシステムがあったのだけど、それ以上に、いつどこから攻撃されるかわからないゲームだった。なにしろルール上可能なのだから。じっさいには同盟の利益が大きいから簡単に攻撃を受けるわけではないとしても、恐怖はいつでもあった。
このテラミスティカも、乱数の少ないゲームだ。キングメイカーなどは充分に発生しているのだろうけど。ただそれがわかりにくくなっている。強すぎるインタラクションを排除していることと、なによりネガティブなインタラクションが少ないことが大きい。
開拓して拡大再生産するゲームとしての特徴が強調されている。これはうまいなと思った。
とにかくインタラクションの塩加減がとてもいいのだ。
いっぽう弱点はというと、やはり複雑すぎることと重いことだろうか。
いわゆるドイツゲーム的な、要素を削ったエレガントさはない。むしろ要素を増やし、増やすことで調整しているゲームだ。最近は「ピュアユーロ」という言葉が使われているようなのだけど、ぜんぜんそういうゲームではない。
かといってアメリカ的なデタラメなゲームというわけでもなく、ワーカープレイスメントの流れに連なる遊びやすさはしっかりとあるのだけど。やはり多すぎるだろう。
まだ紹介していない要素として、ラウンドの得点タイルというものがある。全部で6ラウンドのゲームなのだが、各ラウンドにこのタイルがある。このラウンドは開拓地を建てたら2点とか、このラウンドはスコップを使うたびに2点とか。それがゲーム開始時に、ランダムに6ラウンド分並べられている。
テラミスティカは、このタイルを睨みながら得点をとっていくゲームでもある。
自分の種族の特性に合わせて手順を考え建物を建てていくのだけど、それだけではちょっとワンパターンになってしまうかもしれない。それだけではないのだ。ラウンドの得点タイルを睨み、手順を入れ替えたり遅らせたりすることで、より高い得点を目指す、といった要素が、じつはこのゲームの要だろう。
これが、弱点になってもいるかもしれない。そんな気もする。得点タイルの効果で開拓地を建てたら得点、というそのことに、理由がない。ただゲームのルールだからそうなるのだ。結局、勝利点という謎の数字を睨むゲームになっている。
無理やりなルールという感じはある。ファンタジーの世界観と、そのあたりは噛み合っていないともいえる。
そんなところは他にもあったりする。
ゲームに必要なものを追加していった結果なんじゃないかと思う。バランスを優先した結果なのだろうが、ひとつひとつのルールに、意味を付与できていない。
けっきょく、上に書いたことにつながる。多くのルールを追加することで成立しているゲームなのだ。
それは多くのゲームでやっているし、必要なことなのだけど。どこまでの追加なら許せるのかというのは、まあ、プレイヤーが所属する文化によるというところじゃないか。
このゲーム、ぎりぎりのライン付近にいるかもしれないという感じはある。おもしろいから許してるというところはある。
そんなところはあるものの。
好きな人はすごく好きだろう。わたしも好きだ。過剰さは楽しさでもあったりする。
リプレイしたい欲求が強く、クセになるところがある。
なんといっても、種族が14個もある。ひとつひとつの種族も1回では使いこなせない。「次は別の種族で」とか「この種族は本当はこう使うんじゃないか」とか、とにかくもう一度遊びたくさせてくれる。
対戦格闘ゲームのように「持ちキャラ」を決めて遊ぶといいんじゃないか、などと思っている。そういうやりこみにも耐えてしまう出来なんじゃないか。