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エクリプス
 ボードゲーム

エクリプス

2012/07/24 16:31 てらしま
エクリプス
Ecripse
2011年
Touko Tahkokallio
Asmodee editions
2~6人
人数×60分
amazon

 宇宙版シヴィライゼーションという感じのゲーム。探検すると6角形のタイルがめくられ、そこに描かれた星系に殖民する。軍事技術を開発して、宇宙船を建造し他の文明と戦争する。こういうテーマのボードゲームはわりとある。どういうわけか、宇宙といえば探検と開発のフロンティアゲームばかりだ。その中でもこのゲームは、フェティッシュなテーマの再現性という点で完成度が高い。
 コンピュータゲームでは「4Xゲーム」なんて言葉があるらしい。探検(explore)、拡張(expand)、開発(exploit)、殲滅(exterminate)で、Xが4つというわけだ。このエクリプスもまさにそういうゲーム。とはいえ、激しい戦争はあっても「殲滅」まではしない。
 かなりの重量級ゲームだ。箱には「人数×30分」とあるが、だいたい人数×1時間ほどかかる。
 値段も高い。現在ホビージャパンから流通しているもので、12,000円ほどもする。その金額にたがわず、内容物もとても量が多く、豪華だ。

 重量級ゲームということで、ルールは多い。でも、ゲーム内容は意外と整理されている。ゲームを始めてしまえばすんなりと理解できる。
 探検、殖民、植民地からの収入、技術開発、戦争と、そういう種類のゲームにありそうなすべての要素があるのだけど、だいたいのことは、ワーカープレイスメントに近い統一されたインタフェースで実行できる。スマートなシステムだ。わかりやすい。
 現代流のゲームデザインとしては、こうした複雑なテーマにはワーカープレイスメントがふさわしい。それだけではなく、エクリプスのワーカープレイスメントはかなり工夫が凝らされている。発展と、ワーカー(アクション)の増加と、維持コストの上昇がプレイヤーボード上にわかりやすく表示される。このプレイヤーボードは見事。
 ……その代わり、プレイヤーボード上に木製チット40個を並べる準備が必要なのだが(笑)。

 特徴的なのは、宇宙船だ。多くの科学技術が登場するのだが、その大部分が宇宙船に搭載するためのパワーアップパーツ。推進機関とか、ビーム砲とか、シールドとか。
 技術を開発したら、それを作ることができる。作ったら、それを宇宙船に搭載する。宇宙船の主な用途はもちろん戦闘で、兵器を満載している。
 プレイヤーボードには、4つの宇宙船が描かれている。戦闘機、巡洋艦、戦艦、防御用の要塞だ。
 戦闘機は搭載できる部品が少ないが安価に生産できる。戦艦は巨大で部品もたくさん積めるが、非常に高価。要塞は安価だが移動できない、防御専用のユニット。
 ゲームの主役はこの宇宙船たちだ。
 そうして宇宙船をカスタマイズしたら、もちろん、宇宙船を建造する。
 宇宙船は宇宙を移動し、宇宙に登場した原住民……宇宙種族や他のプレイヤーの星を攻撃する。

 最近のボードゲームは闘争がない、なんて話もあるけど、このゲームは気持ちいいくらい潔く、プレイヤー同士が直接殴りあう。
 そのへんはゲームとしてどうなんだと思うところもある……。でもこういうゲームなんだからこうでないと、とも思う。
 いわゆるキングメーカー問題なんて平気で起きるだろう。それ以上に、優位に立った文明に戦闘でも負けたら、逆転なんて不可能だろう。
 でもそれでいいんじゃないか。だってこのゲームでやりたいことは、宇宙戦を作って戦うことだ。
 ちなみに、他のプレイヤーと同盟するルールがあって、同盟すると生産力が上がるというルールがある。そのあたりさすがに、平和的な発展を少しだけ推奨するルールになってはいる。

 もう一つの主役は、というか主役そのものだが、プレイヤーボードに描かれた宇宙種族だ。
 プレイヤーボードは両面仕様になっていて、表面は人類、裏面は特殊な能力を持った宇宙種族、となっている。初めてプレイするときはスタンダードな能力の人類が推奨されている。
 その裏面の宇宙種族。これがなんとも、いい。
 たとえば、古代文明の生き残りのような文明がある。この文明、タイルをめくったときに現れる原住民種族の仲間なんである。
 ふつうは原住民を倒さないと星系に入植できないのだが、この文明だけは倒さなくても入植できる。
 この文明、ドラコというのだけど、これがおもしろい。
 ドラコが原住民のいる星系に入植すると、原住民はそこに残ったままになる。なにしろ仲間なのだから。ところで原住民は財宝を持っている。倒せば財宝が手に入るのである。
 ドラコは序盤、すごい勢いで拡大する。なにしろ原住民を倒す必要がないのだから、そのぶん発展も速い。だけど、ドラコの版図には財宝が置かれた星系がたくさん残っているということになる。ゲーム終盤、ドラコは、財宝を狙う他の文明に攻撃されることになる。
 これ、人類や他の文明に征服される側なのだ。
 地球の文明でいえば、アステカ文明とかそういうの。そういう、宇宙文明の盛衰の物語がデザインされているのだ。
 ほかには、銀河帝国っぽい文明がある。この文明は、ゲーム開始時の資源がびっくりするほど多い。他の文明の数倍もある。その代わり発展しづらいデメリットもあって、影響力を失いつつある老朽化した大帝国という感じがよく出ている。
 または、戦闘が得意な文明は、宇宙船の能力がびっくりするほど高い。
 テーマと物語がゲーム上に再現されている、なんといってもこの感じが、とてもいい。

 ゲームとしての問題点はけっこうあって。
 やっぱり3人以上のゲームにとって、直接攻撃はいろいろな問題がある。同盟ルールで攻撃しづらくなっているとはいえ、それは保障されたものではない。このゲームの戦闘は本当に相手を倒してしまう。それまでに大量の資源を投入して建造した宇宙船が壊されてしまうのだから、負けた側が大損失なのは間違いない。序盤に大きな戦闘があったら、ゲームから脱落するプレイヤーが生まれてしまうだろう。長時間かかるゲームなのに。
 あと、ゲームが少し長すぎる。9ラウンドあるのだけど、あまり戦わずに進めていると、7ラウンドくらいでだいたい発展しきってしまう。最後の2ラウンドはそれこそ、戦争くらいしかすることがない。6ラウンドくらいでいいんじゃないかという気がしてくる。
 これはたぶん、もっと序盤から戦争するゲームなのではないか。そんな気がする。同盟のルールなどもあるが、そんなの使わず殴りたいときは殴るゲームなのかもしれない。そうして足を引っ張り合い発展の速さが遅くなる前提だから、少し長めの9ラウンドなんじゃないかと思ったりもする。

 よくも悪くも、アメリカゲーム的なのだ。
 日本人は、というかわたしの場合、こういうゲームだと、直接攻撃を避けたり手加減したりしてしまうのだけど。アメリカ人が作るゲームを見ていると、彼らはふつうに殴りあって、ゲームから脱落するプレイヤーがいても気にしないんじゃないかと思う。
 ……なんて話をゲーム後にしていたら、このゲーム、アメリカのゲームではない。フランス製だったりする。デザイナーのターコカリオは、フィンランドの人だ。こういうのが好きな人は世界中にいるんだろう。

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