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イニシエーション・ラブ
 読書

イニシエーション・ラブ
乾くるみ 原書房

2005.1.30 てらしま

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 あー、まあ、なんというか、なんだろうなあ。乾くるみが書いたラブストーリーである。うん。
 もうほんとに、恥ずかしいくらいのラブストーリーなのである。でもねえ、だからって素直に共感できるか? なにしろ作者が作者だ。「なんか隠してるでしょ」と思いながら読むに決まってるし、当然、なんかあるわけなのだ。
 一応あらすじ。
『大学四年の僕(たっくん)が彼女(マユ)に出会ったのは代打出場の合コンの席。
 やがてふたりはつき合うようになり、夏休み、クリスマス、学生時代最後の年をともに過ごした。
 マユのために東京の大企業を蹴って地元静岡の会社に就職したたっくん。ところがいきなり東京勤務を命じられてしまう。
 週末だけの長距離恋愛になってしまい、いつしかふたりに隙間が生じていって……。』
 まったく、これだけ読んだらアホかと思う。いや、失礼。
 とりあえず三回読まされた。
 このラブストーリーに素直に感動する純真な読者もいるかもしれないのであまり書きたくないのだが、なにしろオビに「驚愕の仕掛け」とか「2度読まれることをお勧めします」とかすでに書かれちゃってるしね。
 読み返すことを強要する作りになっている、そういう種類の小説なのである。
 例によって、読み返しているうちに無性に腹が立ってきて本を投げつけたりするわけなのだが。
 とはいえ大筋はラブストーリーで、それもしっかりと細部までが書きこまれている。最後のほろ苦い感じのあたりでは感動する人も……正直苦手分野なのでわからないが、いてもおかしくないかもしれない。まあこの作家の本性は、やけに書きこまれたベッドシーンにあるし、さらにはそこにある、実にしょーもないギミックにあるわけなのだが。
 ネタバレを書けないので(すでにスレスレかもしれんが)あまり続けないことにしよう。
 ほめていないように見えるかもしれないが、わたしはもちろん嫌いじゃない。それにひょっとしたら、これは「乾くるみの代表作!」かもしれないのである。否定することなど、わたしにできようはずもない。
 というのはこの作家、今まで「代表作」というべき作品がなかった。たぶん一番魂を込めて書かれたのは『匣の中』だと思うが、あれは竹本健二の『匣の中の失楽』を読んでから読めと書いてある小説で、それを一人の作家の代表作であるとするわけにいかない。では他にわたしがもっとも衝撃を受けたものはというと『マリオネット症候群』なのだが、うーん、あれはなあ。「てへっ」だしなあ。わたしはそれでもいいけど。
 そんなこんなで、どうもとらえどころがないという感じがいままで続いてしまった、と思う。読めば確実におもしろいのだが、カバーを眺めてもそのおもしろさがまったく伝わらない。「それでもいいから読め」といったところで、どの作品を勧めるべきなのかというところで困る。そんな作家だった。
 で、ここに『イニシエーション・ラブ』なのである。なにしろ恋愛ものというのはむやみに万人ウケする。『匣の中』や『マリオネット症候群』のように突き抜けてはいないものの、これはこれで、芸風を確立した安心感がある。
 というわけでひとまずほっとしたというか。でもわたし自身は、もっとエグい奴の方が好きなんだけど。


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