好きなゲームデザイナーは?
そう訊かれたら、「ウォルフガング・クラマー」と答える。だがそれは少し違う。順序が逆なのだ。このゲームおもしろいなーと思って調べるとデザイナーがクラマー、ということが非常に多いのである。
フィレンツェの匠もそうだった。クラマーらしいゲームではないのだが、デザイナーを知らずにプレイしておもしろいと思った。
この人は本当にいろいろなゲームを作る。しかし、すべてに通底する精神はある。できるかぎり例外的なルールを作らないこと、そして常に新しいゲームをデザインすることだ。
ゲームデザイナーであると同時に、この人は芸術家なのだろうと思う。だからハズレも多いのだが、細かいゲームバランスよりもゲームの展開それ自体のおもしろさの方を重視しているように思う。そういうところが、わたしは好きなのだ。
そんなクラマーの、芸術家をテーマにしたゲームである。
ルネサンス華やかなりしころ。フィレンツェの金持ちが、芸術家を雇って作品を発表させ、名声を得ていくゲームである。
いかにも金持ちらしく、芸術家のために自分の土地に建物を建ててみたり、公園を作ってみたりしていく。今でいえば、サッカーで話題のアブラモビッチみたいなものか。しかしこのゲーム、そういう豪快な雰囲気を味わえるかといえばそうでもなく、やはりクラマーのゲームらしく、高度な戦略と計画性を要求され、むしろ最低単位のお金を出すか出すまいか考える、しみったれたプレイを要求される。
ラウンド開始時には競りフェイズがあり、ここで各プレイヤー一つずつ、いろいろな効果を持つものを競り落とす。
次に各プレイヤーのターン。ここでは「作品発表」「建築」などの行動を2回おこなう。そして7ラウンドが終了したらゲーム終了である。
つまり、21回ある行動でいかに他人より多くの名声ポイントを獲得するかというゲームになる。
他人との関わりという部分がほぼ競りにしかないため、始めから7ターン分の計画を立ててゲームに挑むことが、できてしまう。慣れたプレイヤーになるといくつかの勝利手順を持っており、1ラウンド目のオークションの結果次第で方針を決定する。逆にいえばそれを持っていないプレイヤーは絶対に勝つことができないわけで、そこは欠点ともいえるが、おもしろいところでもある。
そして、慣れたプレイヤー同士ならば、けっきょく勝負を決めるのは落札価格ということになる。安い買い物をしたプレイヤーが有利になるのである。ゲームの局面を金額に換算する冷静な判断力が必要なゲームということになるだろうか。
余談だが、まあ、ここ数年の競りゲーブームにはちと食傷気味ではある。競りゲーというのはプレイヤーが競りの価格を決めていくため、デザイナーにとってはバランスの調整をする必要がなく、ずるいと思う。しかしまったく同じ理由で、やはり競りが入っているゲームはおもしろいものが多い。ただどんなに軽いゲームでも、競りが入ると非常に疲れる。
さてこのゲーム。クラマーらしいと思うところは、カードの引き方だ。
カードには3種類ほどあるのだが、引き方がどれも同じで、「山の上から5枚見て、うち1枚を引き、残りを山札の下に戻す」というものになっている。下に戻すのである。しかも山札はそれぞれ十数枚しかないので、ほぼ必ず一周する。つまりこれを憶えておけば有利になる場合があり、実際、建築をしまくる作戦(まあそういうものがあるのだ)の場合は山札をコントロールする必要があったりもするのだ。カードドローには運が必要だが、それをプレイヤーの腕で解消する手段も用意されているわけである。
やると疲れる、じっくりとり組むべきゲームである。だが、なにしろうまくいけば、始めに自分が立てた作戦どおりに事が運ぶわけで、勝利したときの充実感は大きい。その作戦と棋譜それ自体が一つの作品として発表されたかのような。なるほど、「フィレンツェの匠」とは(原題はだいぶ違うのだが)雇われた芸術家ではなく、プレイヤーたちのことなのではないかとも思える。