おもしろいことはおもしろい。いや、それだけではない。斬新なところもあるし、基本的なルールはすべてよくできている。
これは、名作……になっていたかもしれないゲームなのだ。
ひとまず紹介。ボードには、全部で15個のマスがある。まあボードには絵が描かれているだけなので、説明されないとどこにマスがあるのかすらわからないわけだけど、とにかく、マスがある。
ついでだが、考えてみれば15マスしか使っていないのに、日本のちゃぶ台に乗り切らないほどでかいボードは不満だ。まあたしかに、この大きさのおかげで楽しい気分になれるという部分はあるのかもしれないが、このせいで箱も大きいので持ち運びが不便なのである。
とそれは余談。プレイヤーは、1から9までの数字が書かれた8枚の(3がない)チップを持っている。これは部下を表していて、数字が大きいほど有能な部下。この8人の部下を、ボード上の15箇所に送りこんでいくのである。
さて、ゲームの目的は、宮殿で買うことができる「アーティファクト」を集めること。そのためにはまず、ドラゴンの巣から宝石をかっぱらってこなければならない。その宝石を、アーティファクトと交換するのだ。
先ほどから書いている15箇所だが、それぞれに意味が違う。まず一番下の5箇所はドラゴンの巣。中段の4箇所は街で、そこにいくといろいろと特殊な効果を得られる。上段には宮殿が並んでいる。
各ラウンドは二つのフェイズに分かれている。第1フェイズは部下を送りこむフェイズ。全員が一つずつ、すべてのチップを配置し終えるまで続く。
このゲームでもっとも重要なポイントだが、この部下チップは裏向きに配置する。裏からでも誰のものかはわかるようになっており、ここでいろいろな駆け引きが生まれてくる。
第2フェイズは、配置し終えたチップを一箇所ずつ開けていく。場所によって解決法が違うが、基本的には、配置されたチップの数字の合計が大きいプレイヤーがその場所の効果を得る。ドラゴンの巣なら宝石を得るし、宮殿ならアーティファクトを買う権利を得る。
アーティファクトと交換する目的のために、わざわざドラゴンの巣までいって宝石をとってくるばかばかしさも楽しいのだが。なによりこのチップ配置が楽しい。
局面によってプレイヤーごとに価値が変動していくそれぞれのマスに、すべてのプレイヤーが同時に(時計回りだが)配置していく。もちろん複数のマスで他人の配置とかぶるわけで、盤面のいろいろな場所で、あらゆる組み合わせの、プレイヤー対プレイヤーの紛争が勃発していく、この過程がなんとも楽しい。
どこで手を抜くか、どこに力を入れるか、裏向きの他人の配置を見ながら決めていくわけなのだが、もちろん絶対に引けない局面もあったり、そういうところで意地をはったり、実はブラフだったりの駆け引きを、複数同時にやっていくわけである。各プレイヤーがとっている戦略、価値観(というより顔色)、状況が、いろいろな場所で同時に綱引きをはじめる、このシステムは実によくできていると思う。
15箇所に8枚ずつというチップの枚数も絶妙だ。多少複雑と感じられてしまうこともあるようだが、それぞれに解決法の違ういろいろなマスがあるのもおもしろい。そのおかげで、様々な選択肢のすべてに、まったく違う意味を持たせることができている。チップ配置に、プレイヤーの意志を乗せることができるのである。
例えば『ブラフ』などでは、けっきょく宣言がウソかどうかを判断する基準はない。むろんあれはあれでおもしろいのだが、ああしたゲームには、宣言をした本人の「意思」が存在しない。宣言がウソなのか本当なのか、判断するのは相手プレイヤーであり、その判断基準は、ゲーム上には示されていない。だいぶ複雑にアレンジされたジャンケンをやっているのと同じだった。しかしモルゲンランドには、どのマスにどのチップを送りこんだか、推理する基準がある。このチップをここに配置すればそれは彼にとってこういう意味になるだろう、というものが、つまりプレイヤーの意志があるからだ。
プレイヤーの意志をボードに表現することができる、こういうゲームを実現するのは、実は非常に難しい。貴重なシステムなのはたしかである。
ではなぜ名作になれなかったか。
名作という人もいるし、現におもしろいのだからそれでいいじゃないかといわれたら反対する気もないが、わたしは、これは名作になりそこねたと思っているのである。
ちなみにこのゲーム、「サイコー!」という意見の一方で、「なんだかなあ」とか「イマイチ」とかの意見もある。評価のわかれるゲームである。
まだ紹介していない部分なのだが、勝利条件でもあるアーティファクトには、持っていると特別な効果がある。いつでも1ターンに一度だけ、アーティファクトと使うと宣言すると、特殊効果を起こすことができるのだ。
その中に「アラジンのランプ」というものがある。これを使うと、そのターンは何度でも「魔法カード」を使うことができる。
これも説明していなかったが、魔法カードは、街にある「アラジンのテント」という場所でチップの競り合いに勝てば一枚もらえるものだ。戦略に多様性を持たせるため、つまり5人でプレイしたときに敗北確定のプレイヤーを出さないために導入されたのだろう。
魔法を使うといろいろなことが起こり、まあ楽しい。だが……。
弱いのである。わざわざチップを派遣してまで集めた魔法カードが、なんとも、弱いのだ。
もう少し正確に書くなら、他人を邪魔することはたしかにできるが、自分は損をしている、である。
魔法を使うためには「アラジンのテント」にチップを配置しなければならない。つまり貴重な自分のリソースをつぎこんでいるのだから、それだけ他人より伸びが遅くなる。その上、使っても自分だけが伸びられるわけではなく、むしろ後退する。その結果得られるものは、せいぜい一人のトップをとめることができるだけ。
勝利を目指すならば、魔法は買うべきでない。
魔法カードという要素は不要だったのだ。しかも、この魔法のルールが一番複雑だし、わざわざカードがついてくるわけでもあるし。そのあたりが「イマイチ」とかいわれてしまう要因になっている。
しかしだ。実は、だからといってゲームが壊れているわけではない。「強すぎる選択肢」があるのは大きな問題だが「弱すぎる選択肢」は選ばなければいいだけの話。他の部分がよくできているゲームならば、ゲーム自体のおもしろさは変わらない。
でもやっぱり「名作」であるためには、無駄な要素はすべて排除されている必要がある。
そういう意味で、これは名作になりそこねたのである。残念といえば残念。魔法カードの効果をもっと吟味するか、もっと容易に使えるようにするか、他の要素とのかねあいをもう少しなんとかするか(このルールでは、魔法を使うよりも他のアーティファクトを使う方が数倍も強い)。いずれにしろ、あと一歩だったのだ。
まあでも、おもしろいシステムは素直に評価すべきだとわたしは思う。名作ではないかもしれないが、おもしろいのである。