別名『苦しい動物園』。
いやーだって、競りなんですよ。ほぼ全部、公開情報の競りなんですよ。
いちおうついたてがあるし、持ち金は隠しているわけではあるけど。でも隠しているのは持ち金だけ。それくらいは憶えていても不思議はない。というか憶える。計算すればわかる。
気軽なゲームと思ってはいけない。プレイ時間60分と書いたけど、たぶんたいていは、もっとかかってる。ゲーム内容もカツカツだし、かなりきついゲームだ。
競りの対象は、動物園のタイルだ。カルカソンヌみたいに道をつなげて置き、自分の動物園を広げていく。
タイルは長方形。縦にも横にも置ける。道さえつながっていれば、ずらして置いてもいい。このあたりは、箱庭ゲームとしてちゃんと楽しい。
タイルには動物の絵と、星印が描かれている。
星印は(たぶん)その動物の人気度をあらわしている。
各動物について、1番人気の動物園と2番人気の動物園に客がくるというしくみだ。
……さあ、そろそろあやしくなってきた。
そう、この構造は、やはりカツカツな(そして見るからに)競りゲーで有名な、メディチと同じものなのである。
なにが『楽しい動物園』かと。
このタイトルは、絶対ネタだと思う。
競り落としたタイルを配置すると、その場で客がくる。各動物について、1位の動物園には、その動物と同じ色の客コマが2個。2位には1個。順位が入れ替わるたびに、客コマも移動する。
客コマ以外にも得点手段がある。木がたくさん植えられていると、木コマがもらえる。ループした道を造ると、ベンチコマがもらえる。
1ラウンドに5枚ずつのタイルを競り、合計5ラウンドやる。各ラウンド終了時に、タイルを配置した結果自分の動物園に置いたコマの数に応じ得点が入る。
1ラウンド目なら「コマの数×1点」。びっくりするほど簡単だ。
2ラウンド目なら「コマの数×2点」。以下そんな感じで、5ラウンド目には5倍まで増える。
この得点計算のシンプルさ。デタラメさ。必要以上にシンプルなルール。
なんというか、よくある「子供だまし」のゲームと同じ匂いがする。
ところが……これ、意外にも好バランスなんである。
いかにもてきとうなのに。これであってるんである。
なんかくやしい。
もちろん、シンプルなのはいいことだ。それで楽しめるバランスになってるんなら、いうことはない。ゲームデザインとしてはもちろん、ほめるべき。
意外にも(失礼)、いいゲームだ。いやほんとに。
しかし……、この「いかにもファミリー向け」みたいなボードと、コマと、ルールが。……汚れてしまったボドゲオタには、皮肉にしか見えない。
なんだか腹立たしい。おもしろいことが。
じっさい、競りゲー好きにはけっこうおすすめできると思う。
いうまでもないけど、メディチは傑作だ。シンプルなルールに、競りゲーのおもしろさが凝縮されている。でも、じつはもう過去のゲームだという気もする。シンプルなだけに、もう解が見つかりかけているゲームではないかと思う。
だから、昔メディチに夢中になったことがあるなら、いまあえてもう一度やる必要はないのではないかと思っている。
(もちろん、久しぶりにやれば、やっぱり傑作だ。おもしろかったりするわけだけど)
メディチだけではない。競りゲームには傑作も多いけど、じつのところ、すでに寿命が尽きかけているものもけっこうある。そういう気がしているんである。
「インタラクションが強すぎる」ために、必ずキングメイカーが生まれるゲームになっていたり、それ以前に展開が制御できないゲームになったり。
競りはお金をたくさん持っているほうが有利だから、1ラウンド目の差が最後まで縮まらないゲームになったり。
競りゲームは、けっこう寿命が尽きやすい。
で、話は戻ってこのゲーム。そうした過去のゲームの反省が、ちゃんと活かされているように思う。
競り合う対象にバリエーションを持たせることで、ゲームの寿命を延ばした。各自の動物園の事情によりタイルの価値が変動するから、展開に幅が生まれた。それと同時に、タイル配置で箱庭ゲーム的な楽しさを組み込んだ。
タイルの配置というわかりやすいルールの中に、とても多くの要素がつめこまれている。
タイル1枚に盛りこまれた情報量はじつは多いのだけど、なにしろテーマが動物園だ。親しみやすい絵のおかげで、とりあえず抵抗感なくゲームに入れてしまう。
非常にロジカルに、よくできているゲームと思う。
……で? 『楽しい動物園』ってゲームがロジカルになんだって? やっぱり皮肉にしか見えないわけだけど。