海賊が船を襲うゲーム。というのはタイトルを見りゃわかる。まさにそういう内容のゲームでもある。
マニュアル冒頭の紹介文より。
波止場に財宝を積んだ船が入ってきました。海賊たちは仲間を集めて船を襲撃します。
……波止場で襲うのかー。
とかはまあともかく。
グループのリーダーはどの船を襲うか決めます。そして宝を獲得します。もちろん、協力してくれた仲間たちにはその報酬を支払わなければなりません。報酬が高いメンバーを集めすぎると、襲った船から得た以上の報酬を支払うことになるかもしれません。
紹介文だけでゲームのルールを半分くらいあらわしている。単純で理解しやすいルールと、どちらが先か知らないがルールにマッチした舞台設定。いいゲームである。
海賊なんだから船を襲って財宝を手に入れるのはあたりまえだが、そこに「報酬を支払わなければなりません」という要素をつけ加えたところが、なんといってもこのゲームの特徴だ。
『海賊組合』というタイトルは邦題の意訳みたいだが、ゲームをあらわした、とてもいいタイトルになってるんじゃないかと思う。
海賊コマは一人5個ずつ持っている。手番には、自分の海賊コマを他の人の海賊コマの上に移動することができる。こうすることで、その海賊とチームを組むことになる。
このチームは、船を襲うまでは解散しない。他のチームと合併することはあっても、分割は起こらない。大きくなる一方なのである。
一番上の海賊コマの所有者がそのチームのリーダー。どの船を襲うかなどはリーダーが決める。もちろん、他のチームを吸収することも選べる(他のチームに重ねる)。
というか、他の海賊コマが上に乗ってきたらそれだけであっというまにリーダーがすげ変わるわけだけど。
ちなみに、重ねられたコマを確認することはできない。一番上のリーダーコマ以外は記憶しておかなけばならないという、記憶ゲーム的な要素もある。
で、船を襲う。船に積まれた金貨はリーダーが全部うけとり、その後、襲撃に参加した海賊たちに報酬を払う。これは赤字になることもある。
あと、金貨のほかに財宝タイルというのもある。これは4種類あって、それぞれ、ゲーム終了時に一番多く持っていた人に所定の得点が入る。財宝はリーダーとサブリーダー(というか上から2番目の人)しかとれないから、この財宝が目当てなら、赤字で襲撃することもある。
15隻登場する船を全部沈めたらゲーム終了。一番多くの金貨を稼いだ人の勝利。
手番にすることはコマを一個動かすか船を襲うかだけ。だがかけひきもジレンマもあるし、とくに大きな欠点が見つからない良作だ。
てきとーなストーリーに気軽なシステムではあっても、ちゃんと考えなければ勝てないというのはどんなゲームも同じ。
自分がリーダーとして、このチームで船を襲ったとき、どれだけの収益があるか。または、大きな収益につながるチームに自分のコマを参加させることができるか。もちろんそうした判断のためには、積まれたコマを全部憶えておいたほうがいい。考えただけ勝利に近づけるというのもいいゲームの条件だろうし、そこもこのゲームならクリアしている。
いちおう、欠点もないわけではない。
コマを移動するだけでリーダーはころころ変わるし、ゲームを決定的に左右しているはずのチーム編成が、一つの選択で容易に激変してしまう。これは、考えてみれば、ゲームデザインに失敗するパターンの一つなのである。
いわゆるインタラクションが強すぎてプレイヤーの把握できる範囲を超えてしまい、そのせいで誰かが、気づかぬうちに、致命的にゲームを壊すミスチョイスをしてしまうことになる。結果、終盤にたどりつく前に逆転不可能な大差がついてしまう。
たぶん、どこかに、インタラクションの閾値のようなものがあり、それを超えると、プレイヤーがコントロールすることができなくなってしまうのではないかと思う。それがどのあたりなのかはわからないが、というかそもそもインタラクションをどんな関数であらわすのかというのもわからないけど、なんとなく感じているところとしては「選択一つで順位が2つ変わってしまう」あたりになるとやばいという気がしている。それまでいろいろと積み上げてきた結果大きく順位が入れ替わるのならばかまわないが、一度の選択だけで最下位がトップに変わってしまうゲームは厳しい。なぜなら、ゲームをはじめてプレイするときは当然よくわかっていないわけで、そういう危険な選択をしてしまうことも充分にありえるわけだから。
「インタラクションが弱い」というのが典型的な否定意見であるにもかかわらず、インタラクションをあえて弱く設定したゲームが増えている(そういう気がしている)のは、そうしたほうが、初心者がゲームをぶち壊してしまうケースを減らせるからだろう。それだけ、ゲームが評価されるために使われる期間が短くなっているのだろうと思う。また実際、たとえばゲーム会でゲームをやるとすれば、まず確実に初プレイの人が混じっているわけでもある。同じメンバーでゲームをやりこむ機会というのは、まずほとんどありえないといっていい。
とそんな話は余談なのでまたなんかの機会に。
このゲームは、そうした「閾値を超えたインタラクションを持つゲーム」である可能性が高い。欠点を挙げるならそこだろう。
システムを見ただけでは、はっきりいって典型的なそういうゲームに見える。
実はまだ2回しかプレイしていないけど、この2回のうち一度は、大差のゲームになったのだ。たぶん、このときはそういうパターンのゲームだった。誰かがミスをして、そのミスチョイスが勝者を決めたのだろう(ただし誰もそれを認識していなかった)。
だが、そんな印象はそれほどなかったように思う。おもしろさを決めるのは印象で、これはあらゆるいろんな理屈より上に置いてかまわないと思う。理屈を書いといてなんだけど(ぉ
もっとやりこまなければわからないところもあるが、とりあえずいいゲームだと感じている。