遊星ゲームズ
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ハートオブクラウン
 ボードゲーム

2011/07/06 02:13 てらしま

 今年ゲームマーケット2011春で発表された、これも同人ゲーム。
 とはいえ、ただの同人とは格が違う。あの会場で売ったと噂されている数も、桁外れだ。
 っていうか、プロの漫画家だし。聞くところによれば、ふだんゲームマーケットにこない人たちがあの会場にきてこのゲームを買っていく姿もあったとかなんとか。サークルとして参加してる身としては、なにしてくれんのと(笑)。
 ゲームのほうは、いわゆるドミニオンクローンだ。まあ「クローン」と呼んでいいだろう程度に、ドミニオンを流用している。

heartofcrown2.jpg 剣と魔法の世界。病に倒れた皇帝の後継者を擁立しよう、というお話。その後継者たちというのが7人のお姫さま(2人は双子らしく、カードは6枚)。
 ドミニオンのようにカードを購入し、自分のデッキを育てていく。財宝カードとかアクションカードとか、勝利点カードとかを購入する。ドミニオンで見たことのあるカードがたくさんあったりもする。
 村っぽいのとか、研究所っぽいのとか。
 →の写真は、いわゆる村。まんまなのだけど。これこういうゲームとしては珍しいのだが、ドミニオンの村より強い(安い)。他にも、本家より強いカードがけっこうある。
 なんか日本のゲームの特徴なのかどうなのか、いわゆる「バランス」をとるために、本家ドミニオンよりもカードの効果が弱くなることが多い。しかしそれはたぶん、楽しさを削っている。その方針では、本家の縮小版にしかならないという気がする。なにかがぶれていないかと思う。
 本家より強いカードがあるというのは、それだけ、目標をぶれずに高い意識で作られたというように感じる。

 ドミニオンとは違うところももちろんあって。
 それが、お姫さまを「擁立」するルール。
 お姫さまは6コインで擁立できる。擁立すると、これだけは特別にデッキに入らず、自分の前に置かれる。
 思い出すのは『デックビルドガンダム』のパイロットあたりか。
 この擁立をしたあとが、このゲーム最大の特徴であり、ドミニオンとは違うところ。お姫さまを擁立していれば、勝利点カードを場に出していくことができる。
 ドミニオンはもちろん、デッキの中の勝利点を高めることがゲームの目的だ。しかしハートオブクラウンはそこに手を入れた。勝利点カードはデッキに入っただけではなんの意味もなく、お姫さまを擁立して場に出して、はじめて得点となるんである。
 ゲームのステージがひとつ増えているんである。ルール自体はドミニオンそのものだけど、かなりダイナミックな変更だ。

heartofcrown1.jpg しょうじきなところわたしは、いわゆるドミニオンクローンへの評価が高くない。
 とはいえ評価しているものもある。『サンダーストーン』あたりなら、クローンと呼ぶのに違和感をおぼえたりもする。
 そのあたりの感覚の源泉として、やはり「オリジナルであることに敬意をはらいたい」というところがある。
 これはひどく個人的な印象の話だけど。
 ドミニオンが作った枠組みとゲーム性を流用して作られたゲームは、オリジナルであるとはいえない。オリジナルのゲームシステムで世界中のゲームと渡り合っている他のゲームたちと、同じ土俵で評価することはできない。
 そういう風なことを感じている。
 でも『サンダーストーン』くらいになると、ドミニオンとははじめからぜんぜん違うところでゲームを成立させている。そしてその完成度が水準を超えている。だから、ドミニオンの文脈で語っていいのかどうかに疑問を感じる。
 そんな俺基準でいくと。ハートオブクラウンはやはり、ドミニオンクローンかなあ微妙なところだけど。ドミニオンの枠を拡張しているが、抜け出してはいない。かなあ。
 だから、他のゲームと同じ軸で評価することはしない。
 これは俺基準の中ではそれなりに大切なことで。いくら出来がよくても、他のゲームと同じ土俵で比べられる質のものではない。忘れないようにしたいのだ。
 そんな前提の上でだけど、このゲーム、かなりよくできている。

 擁立のルールがとてもいい。
 ふつうドミニオンでは、手札にきた勝利点カードはジャマだ。手札には勝利点ではなく財宝を集めたい。そのため、例えば「地下貯蔵庫」で勝利点カードを捨てたりする。
 ところがこのハートオブクラウン。お姫さまを擁立したあとは、勝利点カードを手札から場に出さなければならない。そうしないと得点にならないのだ。
 そのため、逆に財宝カードのほうを捨てたりする。財宝か、勝利点かという2択を迫られる局面があったりする。
 そのあたりのゲーム性が、きれいに追加されている。間違いなく、ドミニオンとはひと味違うゲームとして成立している。

 このゲーム、わたしは高く評価しているんである。
 ドミニオンクローンであるというのは商業的な理由と思えば間違った選択ではなく、しかしそこにきっちり新しいゲームを組みこんでいる。
 なによりも、絵がいいし。
 いやいいですよ。萌えが好きだとか嫌いだとか、そもそもこれの絵が萌えなのかとか、そんなことはどうでもよくて、ゲームが表現したい世界観がしっかり表現されている。
 あとカードのデザインなどもよくできており、見やすい(左上に購入コストははやめたほうがいい、などはあるけど)。
 そういう品質の面に関しては、同人のレベルははるかに超えている。
 というか……、小さなボードゲームの世界で他と比較するなら、小さめのプロのレベルも超えてしまっている出来だろう。
 ルール面も、だいぶいろいろな工夫がある。
 特にアクションの「リンクシンボル」はすばらしい。
 カード効果欄の右に矢印があったら、もう1枚アクションが使える。これがドミニオンでいう「+1アクション」を表す。下にも矢印があれば、分岐が増える。つまりドミニオンでいう「+2アクション」だ。
 そしてこのゲーム、財宝カードにもリンクシンボルが描かれている。つまり、アクションと財宝に区別がない。この点に関しては、ドミニオンよりも整理されてしまっているんである。
 他にも、購入数のルールを省いていくらでも買えるようになっていたりもする。その代わり、サプライがある程度ランダムに入れ替わるようになっている。
 ルールを追加する以上、元のルールは少し削ったり整理したりしてほしいよねというのは、クローンをプレイしてよく思うことだ。そこもクリアしている。
 意外とといったらいけないけど、筋のいい改変がなされてる。

 なんていうか。
 狭いボドゲの世界に、いきなり違う世界のメソッドで参入してきたっていうか。
 同人ゲームとはいうけど、少しマイナーな輸入ゲームよりずっと多く出てるし。
 むしろたぶん、ゲームでない同人誌の大手サークルの活動と思ったほうがいいかもしれない。ゲームマーケット後の販路はゲームショップではなく、とらのあなとメロンブックスだ。
 そういう、我々が知るのとは違うアプローチで作られ、販売されているゲームだ。
 そういうゲームが突如現れ、イベントでは異例なほどの数を売った。遊んでみれば出来もいい。なんとも痛快なのだ。


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ハートオブクラウンを