今年ゲームマーケット2011春で発表された、これも同人ゲーム。
とはいえ、ただの同人とは格が違う。あの会場で売ったと噂されている数も、桁外れだ。
っていうか、プロの漫画家だし。聞くところによれば、ふだんゲームマーケットにこない人たちがあの会場にきてこのゲームを買っていく姿もあったとかなんとか。サークルとして参加してる身としては、なにしてくれんのと(笑)。
ゲームのほうは、いわゆるドミニオンクローンだ。まあ「クローン」と呼んでいいだろう程度に、ドミニオンを流用している。
剣と魔法の世界。病に倒れた皇帝の後継者を擁立しよう、というお話。その後継者たちというのが7人のお姫さま(2人は双子らしく、カードは6枚)。
ドミニオンのようにカードを購入し、自分のデッキを育てていく。財宝カードとかアクションカードとか、勝利点カードとかを購入する。ドミニオンで見たことのあるカードがたくさんあったりもする。
村っぽいのとか、研究所っぽいのとか。
→の写真は、いわゆる村。まんまなのだけど。これこういうゲームとしては珍しいのだが、ドミニオンの村より強い(安い)。他にも、本家より強いカードがけっこうある。
なんか日本のゲームの特徴なのかどうなのか、いわゆる「バランス」をとるために、本家ドミニオンよりもカードの効果が弱くなることが多い。しかしそれはたぶん、楽しさを削っている。その方針では、本家の縮小版にしかならないという気がする。なにかがぶれていないかと思う。
本家より強いカードがあるというのは、それだけ、目標をぶれずに高い意識で作られたというように感じる。
ドミニオンとは違うところももちろんあって。
それが、お姫さまを「擁立」するルール。
お姫さまは6コインで擁立できる。擁立すると、これだけは特別にデッキに入らず、自分の前に置かれる。
思い出すのは『デックビルドガンダム』のパイロットあたりか。
この擁立をしたあとが、このゲーム最大の特徴であり、ドミニオンとは違うところ。お姫さまを擁立していれば、勝利点カードを場に出していくことができる。
ドミニオンはもちろん、デッキの中の勝利点を高めることがゲームの目的だ。しかしハートオブクラウンはそこに手を入れた。勝利点カードはデッキに入っただけではなんの意味もなく、お姫さまを擁立して場に出して、はじめて得点となるんである。
ゲームのステージがひとつ増えているんである。ルール自体はドミニオンそのものだけど、かなりダイナミックな変更だ。
しょうじきなところわたしは、いわゆるドミニオンクローンへの評価が高くない。
とはいえ評価しているものもある。『サンダーストーン』あたりなら、クローンと呼ぶのに違和感をおぼえたりもする。
そのあたりの感覚の源泉として、やはり「オリジナルであることに敬意をはらいたい」というところがある。
これはひどく個人的な印象の話だけど。
ドミニオンが作った枠組みとゲーム性を流用して作られたゲームは、オリジナルであるとはいえない。オリジナルのゲームシステムで世界中のゲームと渡り合っている他のゲームたちと、同じ土俵で評価することはできない。
そういう風なことを感じている。
でも『サンダーストーン』くらいになると、ドミニオンとははじめからぜんぜん違うところでゲームを成立させている。そしてその完成度が水準を超えている。だから、ドミニオンの文脈で語っていいのかどうかに疑問を感じる。
そんな俺基準でいくと。ハートオブクラウンはやはり、ドミニオンクローンかなあ微妙なところだけど。ドミニオンの枠を拡張しているが、抜け出してはいない。かなあ。
だから、他のゲームと同じ軸で評価することはしない。
これは俺基準の中ではそれなりに大切なことで。いくら出来がよくても、他のゲームと同じ土俵で比べられる質のものではない。忘れないようにしたいのだ。
そんな前提の上でだけど、このゲーム、かなりよくできている。
擁立のルールがとてもいい。
ふつうドミニオンでは、手札にきた勝利点カードはジャマだ。手札には勝利点ではなく財宝を集めたい。そのため、例えば「地下貯蔵庫」で勝利点カードを捨てたりする。
ところがこのハートオブクラウン。お姫さまを擁立したあとは、勝利点カードを手札から場に出さなければならない。そうしないと得点にならないのだ。
そのため、逆に財宝カードのほうを捨てたりする。財宝か、勝利点かという2択を迫られる局面があったりする。
そのあたりのゲーム性が、きれいに追加されている。間違いなく、ドミニオンとはひと味違うゲームとして成立している。
このゲーム、わたしは高く評価しているんである。
ドミニオンクローンであるというのは商業的な理由と思えば間違った選択ではなく、しかしそこにきっちり新しいゲームを組みこんでいる。
なによりも、絵がいいし。
いやいいですよ。萌えが好きだとか嫌いだとか、そもそもこれの絵が萌えなのかとか、そんなことはどうでもよくて、ゲームが表現したい世界観がしっかり表現されている。
あとカードのデザインなどもよくできており、見やすい(左上に購入コストははやめたほうがいい、などはあるけど)。
そういう品質の面に関しては、同人のレベルははるかに超えている。
というか……、小さなボードゲームの世界で他と比較するなら、小さめのプロのレベルも超えてしまっている出来だろう。
ルール面も、だいぶいろいろな工夫がある。
特にアクションの「リンクシンボル」はすばらしい。
カード効果欄の右に矢印があったら、もう1枚アクションが使える。これがドミニオンでいう「+1アクション」を表す。下にも矢印があれば、分岐が増える。つまりドミニオンでいう「+2アクション」だ。
そしてこのゲーム、財宝カードにもリンクシンボルが描かれている。つまり、アクションと財宝に区別がない。この点に関しては、ドミニオンよりも整理されてしまっているんである。
他にも、購入数のルールを省いていくらでも買えるようになっていたりもする。その代わり、サプライがある程度ランダムに入れ替わるようになっている。
ルールを追加する以上、元のルールは少し削ったり整理したりしてほしいよねというのは、クローンをプレイしてよく思うことだ。そこもクリアしている。
意外とといったらいけないけど、筋のいい改変がなされてる。
なんていうか。
狭いボドゲの世界に、いきなり違う世界のメソッドで参入してきたっていうか。
同人ゲームとはいうけど、少しマイナーな輸入ゲームよりずっと多く出てるし。
むしろたぶん、ゲームでない同人誌の大手サークルの活動と思ったほうがいいかもしれない。ゲームマーケット後の販路はゲームショップではなく、とらのあなとメロンブックスだ。
そういう、我々が知るのとは違うアプローチで作られ、販売されているゲームだ。
そういうゲームが突如現れ、イベントでは異例なほどの数を売った。遊んでみれば出来もいい。なんとも痛快なのだ。