新作『ワールドモンガー』の入稿が済みまして、どうやら予定どおりゲームマーケット2014秋で販売することができそうです。これからまだ箱詰めとかやらなきゃいけないけど。
今回は、その『ワールドモンガー』のデザイナーズノートをなんか書いてしまったので掲載しとこうと思います。
『ワールドモンガー』の原型はかなり以前からあったのだけど、現在のかたちになったのは2年と少し前のことだったと思う。きっかけとなるゲームがあった。『メルクリウス』だ。
なんかこう、この文章がプレゼンテーションのつもりならもっと有名なゲームを出せよという気もするけど。本当なんだからしかたない。
『メルクリウス』は、株を売買するゲームだ。本当に素直にそういうゲームで、ゲームボードにはそっけない株価チャートが、どーんと大きく印刷されている。
ただ少しだけ違うのは、数ラウンド後の株価が予想できるところだ。
各プレイヤーは毎ターン、手札から株価を上下させる「価格変動カード」を出す。そうすると株価が変わる。ここまではありそうなシステムだし見たこともあるだろうけど、もちろんこれだけではない。メルクリウスならではの、独特なアレンジがある。それは、プレイした価格変動カードがその後3ターンの間持続するというところだ。
それが、プレイヤーの前に、カードを3枚置くことができる個人ボードがある。この上にカードを置く。カードは左端に追加し、すでに置かれているカードは右にずらす。右端のカードは押し出されて捨てられる。
例えば「エルクハイゼン社の株価を1上げる」というカードがある。このカードを1度プレイすると、3ラウンドの間この効果が持続し、エルクハイゼン社の株価はこの後3回上がる。
数ラウンド後の状況がある程度見えている状態で、株の売買をするということだ。この将来を予想できるというところが、とてもいい。
じっさいの市場でも、株価の変動というのはただのランダムではなく、トレーダーたちの意志により上下するものだろう。それを模倣した株式ゲームは、ただのランダムで株価を動かしてはならない。と思う。
もちろん完全に予想できてはいけないが、まったく予想できない乱数でもいけない。適切なカオス系でなければならない。そうでなければおもしろくないからだ。
これはゲームだからというだけではなく。そもそも現実の株の取引だって、まずおもしろかったからこそ世界中に浸透したシステムだったのではないかと、個人的には思う。
株価の増減を、どのような装置で実現するか。この装置の作りが、株ゲームの見せ場であり醍醐味だ。
メルクリウスの株価は、プレイヤーの行動で上下する。そして3ラウンド後までの変動が見えている。予想できるのだ。しかし他のプレイヤーの手札の状況やそれを元にした思惑はわからない。
予測できる部分とできない部分が、ひとつのメカニクスの中にきちんとおさまっている。そこに感心した。これすごくいいなと。思ったのだ。
将来のことがいくらか読める乱数と、プレイヤーの意志。これは、自分がゲームに求めるものの中で上位に位置する項目だ。
このことを美しく表現したゲームメカニクスのひとつが、デッキ。このタイトルは出さないわけにいかない。『ドミニオン』だ。
個人的に。ゲームデザイナーよりもユーザとしての話だけど、デッキゲームにはこだわりにこだわってきた。ドミニオンとはなんだったのか、デッキがゲームにもたらしたものはなんだったのか、そんなことを、何年もずっと考えてきた。これはいまも考えている。
そうして、いま自分が持っている理解のひとつがこれ。デッキとは、プレイヤーの意思を込めることができる予測可能な乱数装置である。
つまり、先ほど書いた『メルクリウス』の価値変動カードと同じ機能を持っている。といえる。メカニクスとしてはまったく違うものだけど、ゲームにもたらすものは同じなのだ。
ゲームのメカニクスは、ゲームに対しなにかの機能を持っている。そしてメカニクスは複数が絡み合いひとつのゲームを構成する。ゲームに必要な機能にはいくつか決まったものがあり、いくつかのメカニクスの機能でそれらを網羅すれば、ゲームが完成する。
そんな話は『テーブルゲームデザインの本』にも書いたかもしれない。
別に変なことはいっていない。あたりまえのことともいえるだろう。しかしこの考え方は、重要な知見をいくつか与えてくれる。そのうちのひとつは「同じ機能を持つメカニクスは可換である」ということだ。
メルクリウスの価値変動がドミニオンのデッキと同じ機能を持つのであれば、デッキを使った株ゲームを作ることができるということになる。
ワールドモンガーのゲームデザインはそうして出来上がった。
こうして言葉にすればすぐできたように見えるけど、もちろんそんなことはなく……。いろいろと考えては作りなおし、多数の試作品をボツにし、ある日ふと思いついたというのがじっさいのところなのだけど。
といっても、メルクリウスとは株ゲーだという一点しか似ていないし、デッキゲームを作ったという感覚もなかったりする。
ところでデッキ+株ゲームといえば、もっと近い作品がある。メルクリウスよりも前のタイトルになるのだが『暗黒の金曜日』だ。
作者のフリードマン・フリーゼは、世界で一番、デッキゲームの呪いを受けたゲームデザイナーだと思う。『ビール侯爵』『ラクラク大統領になる方法』『ロビンソン漂流記』などなど、デッキゲームを再解釈したタイトルが多数ある。そればっかり作っていたといってもいいんじゃないか。
暗黒の金曜日にデッキは登場しないのだが、まったく同じ役割を持つギミックがある。巾着袋だ。このゲームでは、株を買うと袋の中にコマが投入される。株を売ると、袋からコマが減る。毎ラウンド、袋から決められた数のコマを取り出し、出てきた色の株価が上がる。株が買われるほどその株の価値が上がり、売られるほど下がる、株価の動きをそうして表している。これ、かたちが違うだけで、機能はデッキそのものだろう。
わたしは暗黒の金曜日も好きだ。今回は直接意識したわけではないのだが、影響を受けていないはずがない。頭の中の回路のどこかにこのゲームがあったのは間違いない。
他にもたぶんある。『アクワイア』の、途中で資金がショートするあのバランスとか。『1830』の、プレイヤーは株主だが社長にもなり、その行動で株価が上下する感じとか。『スモールワールド』/『ヴィンチ』/『ヒストリーオブザワールド』の、超越者の視点で地上を見下ろすあの感覚などもたぶん意識にあっただろう。
ワールドモンガーは、株ゲームでありデッキゲームだ。この組み合わせは非常によくかみ合った。美しいゲームシステムができたと思う。
次の問題は、テーマ設定だ。
さてしかし、これは難題だぞ。と、最初は思った。でも最初だけだった。じっさいには苦労しなかったのだ。
テーマを考えるにあたり、まず最も重要と考えたのは、投資対象である各会社のキャラクター性だ。各会社の株券はプレイヤーと直接関わるトークンであり、これがはっきりしたものでないとゲーム全体の印象がぼやけてしまう。と考えた。
株ゲーは地味な印象になりがちで、おもしろくても卓がたちづらいという欠点がある。株を買ってもそのうち売ってしまうのだから、つまりそれは自分のものではない。そのままでは、プレイヤーが感情移入する焦点がない。例えば自分の箱庭を成長させていくようなタイプのゲームと比べ、そういう点で不利だといえる。
ゲームのシステムやバランスの善し悪しやなどといった論理的な価値基準とは別の話として。こうしたものも間違いなく、おもしろさの要素のひとつだ。
最近のボードゲームシーンでは特に。いまは、ものすごくたくさんのゲームがある。少し前ならヘビーローテーションされていただろうすばらしいゲームが、1回遊ばれただけで積まれている状態だ。
その中であえてこれを遊ぼうというモチベーションを持ってもらうためには、ゲームの完成度だけでは不充分だ。いや、あえていえば、完成度よりも重要ななにかが他にある。寂しいといえば寂しいのだけど、じつはずっと昔からそうだったし、ゲームに限らずどんなメディアでも同じだ。
と、こう書くといやらしい話のようだけど。じっさいの話、単純に、キャラクター性があったほうが楽しいし遊びやすいという話だ。
株券に名前があれば「○○社を買います!」ということができる。それだけで、プレイしやすさがだいぶ違う。さらに、それぞれの株に少し特徴があれば、プレイヤーが選択するための基準になる。選択肢のそれぞれに特徴があり、それが引っかかりにならないと、思考が滑ってしまう。引っかかりがありそこに名前があれば、それを他とは違うものとして認識できる。「○○社つえー」みたいな会話が、起こってほしい。
と、そういう考えのもと、各会社に名前をつけなければならないということになった。
トヨタとかホンダとか、実在の会社にすることも考えた。でもしっくりこない。このゲーム、株価の変動が非常に激しい。実在の株はこんなに激しく動かない。そんなことを考えると、実在の会社名をつけるのも適切ではない気がしてくる。
あるいは、ぜんぜん関係ないテーマにしたほうがいいのかもしれない。流行っぽくキャッチーに、アイドルとか。ファンタジー世界にしたらどうだろうとか。『キング・オブ・トーキョー』や『モンスターズ アメリカの脅威(モンスター・メナス・アメリカ)』のような、怪獣に特殊能力をつけていくゲームという案もあった。しかしどれもしっくりこないのだ
……あ、でも、最後のあたりはいま思うと悪くなさそうだな。
まああとで考えよう、カードの効果を先に作っておき、テストプレイをたのむ友人たちにアイデアを募ってみよう。そう考え、とりあえず、ただなんとなく古代文明の名前を株券に書いた。別に理由などなかった。
そうしたら、これがはまったのだ。
テーマに合わせ「神殿」「交易地」などのカードをぽんぽんと思いつく。しかも、名前と効果がセットで。このかたちになってからの試作品1号はすぐに完成した。
それでもしばらくは他のテーマも考えていたのだけど、テストプレイをくりかえすうちにだんだんと、これが一番いいような気がしてきた。もはや他のテーマではありえない。最終的には、これがいいんじゃないかという友人の一言で決定した。
古代文明に投資する天上の神々。強欲な世界商人「ワールドモンガー」の誕生だ。
見てのとおり、無理のあるストーリーだ。なんで古代文明が株券なのか。でもどこか、なんとなく説得力があるような気もする。
文明というのは、キャラクター性も非常によく出る。急速に発展したり衰退したりする動きもそれらしいし、はっきりとしたテーマがあるからこそ、このカオスさが見ていておもしろい。それを天上から見下ろす神の視点の、ボードゲームとの相性のよさもある。
「株券」という言葉も、おもしろいからそのまま残してしまった。このくだらなさでいい。
いまではもう、奇跡の配役だったかもしれないと思っている。自分が表現したかったゲームにぴたりと合うのは、このテーマしかありえない。
『ワールドモンガー』はだいたいそんな感じで作られた。さまざまな思いつきがぴたりとはまった感覚がある。自信作だ。
生産コストの高さゆえ数を作れないのが残念なのだけど、機会があればぜひ遊んでみてほしい。
『ワールドモンガー』は、ゲームマーケット2014秋で販売します。下記からお取り置き予約を受付中です。当日販売分もありますが、数が少なめのため、確実に手に入れたい場合はお早めに予約することをお薦めします。
ワールドモンガー
内容物:カード320枚
※内容物以外に、ポーカーチップなどを別途用意する必要があります。
プレイ人数:2~5人くらい(推奨3~4人)
プレイ時間:45分