2001.9.30 てらしま
イラストを描いてる永盛綾子というのが、なにを隠そうサークルの先輩だった人なのである。どうでもいいことを書いてしまったが、私にとっては、そうでもなければこうした本を児童書のコーナーにまで足を運んで手にとる機会もなかったわけで、これは幸運な出会いということになる。
そういう事情があったから、失礼ながら内容の方にはまったく期待していなかった。このみおちづるという作家は前作『ナシスの塔の物語』(ポプラ社)でデビューした人で、本作は期待の第2作、ということになるらしい。児童文学の世界については私はまったくよくわからないので、当然この作家の名前も初めて知った。
ところがだ。実際に読み始めてみるとこれがまた意外にもなかなかの傑作なのである。世の中は広いのだということを、いまさらながら思い知らされることとなってしまった。
もう200年以上も海を彷徨い続けている海賊船ユーラスティア号。その船長が、何年経っても15、6歳のままという主人公ユーリだ。不思議な力を持つ少女ユーリは、海を旅しながら不幸な人々を助けている。
奴隷商人に売られそうになっていた少女ノエルは、ユーリに助けられる。それから、ノエルはユーラスティア号でユーリや海賊の仲間と共に旅をすることに。
魅力的なキャラクターたち、特に主人公のユーリに隠された秘密などは、本筋に絡みネタばれにもなるので書かないが、あっと驚く意外性と考えさせる深みがある。少女ノエルの描写にも説得力があるし、あまり平和ではなさそうな世界観もいい。
そしてもちろん、世界観を補強する美しい絵の数々(宣伝)……。
児童文学の世界というのはほとんど知らないのだが、私が子供の頃読んだ本の中には、ただの勧善懲悪ではない、こうした重みのある話は少なかったように思う。だから、子供にというよりもむしろハイティーンから20代の人間が読んでおもしろい本という印象があった。もちろん子供が読んで悪いということではないし、むしろこういう本を子供の頃に読みたかった、と私は思う。
なにしろ「少女海賊」なワケだから、現代のヤングアダルトやマンガに共通する感覚はかなりあるのではある。
それにしても、実になんというか、巻頭の「大図解! これがユーラスティア号の内部だ!」(こんなことは書いていないが)といい、我々20代の人間より10年ほど上の世代の感覚というのが端々に感じられる本だった。私はもちろんSFファンだから、こういうのは大好きなんだが、対象としている小学校中・高学年生にとってはどうなんだろう。
流行には周期があるというが、そういうのはこうやって生まれているんだろう。洗脳、ともいうかも……。
しかしこういういい話を(もちろん絵も)読んで育った子供は幸せだ、とは思うのだ。
2001.10.1 てらしま
前の『猿の惑星』は私の好きな映画の一つ。それを、ティム・バートンが「リ・イマジネーション」したというのがこの映画。
バートン趣味まるだしのストップモーションで動く猿を期待してたけど、さすがにそこまでのことはできなかったようす。でもCGじゃなくて特殊メイクと役者の演技で猿を再現している。
話題のストーリー……はともかく、役者に猿の動きを見せて勉強させたという特殊メイクの猿たちには本当にリアリティがあった。いつも鼻を鳴らしていて、一つのものに注意を集中することがない、という猿の習性どおりに、もはや原形をとどめていないティム・ロスらが演技する。
なんてったって猿。猿の動き。猿萌え(?)。それがすべてという感じの映画だ。
ちなみに天才チンパンジー、アイの育ての親である松沢哲朗先生は、APEを猿と言うと怒る。彼らは猿より人に近いんだそうだ。
でもこの映画では、言葉を喋るしときどきすごく人っぽく見えるけど、やっぱり人とはけっこう違う猿(APE)というものがうまく表現されていた。新鮮な映像世界だし、なかなかに惹きこまれるものはあった。
人間代表の主人公はあくまで海軍軍人として行動し、その一方には父親の死に悲しむ猿の将軍がいたりする。人間ってなんだろうというテーマをさりげなくこういうところに織りこんであったりして、いいところを描いているとは思うんだが、完成度はちょっとイマイチかな。でも楽しめた。
2001.10.2 てらしま
「ポイント」という言葉が「地点」の意味だと思っていた。だったらほら、「そこにゆけばどんな夢も叶うと云うよ」みたいな、冒険する話とか期待するじゃないスか。
本屋で初めて見かけてなんとなく買ってしまった身としては、タイトルのそういうニュアンスだって重要なのである。あらすじを読んだ上でそこを食い違っていると、まず間違いなくハズレを引くことになってしまうから。
で、この本。「ポイント」は「得点」の意味だった。がっくし。いや、このがっくしにはぜんぜん、作品の方に責任はない。よく見ればあらすじに書いてあるし。でもそうと知っていたらたぶん読んでない。
なぜか変な世界に閉じこめられてしまっている主人公、穂積。いいことをすればもらえる「青ポイント」が貯まればこの世界を出ることができると言われているが、穂積はそれを拒否し、扉を破壊しての脱出を試みている。
この奇妙な世界は一体……。というのがお話の大きな部分になっていくわけだが、もちろんネタはばらさない。もっとも、すぐにバレバレになってしまうんだが。
個人的に、こういう「異形世界モノ」は苦手だ。『バロック』とか『クーロンズゲート』とか『ラストハルマゲドン』とか、実はどれも、始めてはみたもののすぐに我慢できなくなってやめてしまった。私に想像力が足りないのか、変な世界に入りこめなくて、見ているうちに暗澹とした気持ちになってくるのだ。しかもこのテのものにはなぜか「僕らの罪はどうすれば癒されるのだろう?」みたいな大変なテーマを掲げているものが多いから、さらにどんよりとしてくる。『バロック』とか、ホントはおもしろそうなんだけどなあ。
でこの本。まさにその贖罪系の話でして、やはり暗い気持ちになった。ゲームと違ってすぐ読み終われるのが私には救い。ファンタジーといっていいと思うのだが、その世界観が(青ポイントしか)本筋と絡んでこないのが不満。あと矛盾したことをいうが、早く読み終わりすぎて主人公の行動と感覚にどうも納得がいかない。
2001.10.4 てらしま
いやおもしろかった。とはいっても、まだ始まったばかりなのだが。これからの展開にはかなり期待できる。
13歳の少女、台与(トヤ)は卑弥呼が死んで主のいなくなった大倭の巫女王として立つため、草薙の剣を手に入れ、卑弥呼の皇子、忍穂(おしほ)に嫁ぐ。というところから物語は始まる。
それからは、いかにも大河ファンタジーらしく、大倭の巫女王として内乱を抑え、敵国の侵略を退け、という話が続いていくわけなんだが……。
おもしろいのは、卑弥呼が実は天照で、台与は豊秋津師だ、という立脚点に立って(それを裏づける資料根拠も一応あるらしい)書かれているというところ。そのため、登場人物を見ていると邪馬台王朝というよりはむしろ古事記の物語といった感じではある。
自ら「古代史オタク」と名乗る作者の作品だけあって、古代国家の興亡の歴史には説得力がある。「邪馬台国東遷説」というのを元にしているらしく、これはもともと北九州にあった邪馬台国が奈良に遷って大和朝廷の基盤になったという説らしいのだが、物語も序盤の今はだから、舞台はその北九州あたりにある。そこにはニュースで聞いたことのある遺跡の名前が登場したりして、そういうところもなかなかおもしろいのである。
それになにより、古事記をテーマにしたということになればそれは我々日本人の根元に関わる物語なわけで、やはり興味を惹かれるものはあるのだ。
主人公の少女、台与は13歳という歳にも関わらず、始めからやる気満々だ。草薙の剣を手に入れるため、化生となった野猪と一人で戦う登場場面に始まり、王座につくために皇子である忍穂に押しかけ、妻となってしまったりするのである。もっとも、すぐにこの器の大きい皇子にほだされてかわいくなってしまうわけなんだが……。
この忍穂といい、敵国出雲で素戔嗚尊(すさのおのみこと)を倒し国主となった己貴(なむじ)といい、いい感じのキャラクターがけっこういるので、読み始めると一気に読めてしまう。
実は和製ファンタジーの中では、『十二国記』シリーズに続く傑作に育つ可能性もあるかも、とさえ、今私は思っているのである。
2001.10.6 てらしま
そんなつもりはなかったのだが、初日の初回に有楽町スバル座まで行って観てしまう。とりあえず、上映前の劇場に「WE ARE THE CHAMPIONS」や「WE WILL ROCK YOU」がBGMとしてかけられていたのが粋だった。関係ないけど、「WE ARE THE CHAMPIONS」という曲はわりと好き。テレビ東京番組「サッカーTV」で川平慈英が、いかにも嬉しそうにこの曲の翻訳バージョンを歌っていたのを印象的に憶えているのだ。が、それはともかく……。
中世、騎士も民衆も一緒になって熱狂したスポーツがあった。それがこの映画の題材、ジュースティング(馬上槍試合)である。主人公は騎士の従者だったが、ある日、槍試合で主人が死んでしまう。子供の頃から騎士に憧れていた主人公は、身分を偽りトーナメントに出場する。
ドイツから、フランス、そして「ワールドチャンピオンシップ」が行われるイングランドまで、各地を転戦しながら次第に実力を身につけ、英雄になっていく。恋があったり詐称がばれて大変なことになったりと、話は予想通りといえば予想通り。ちゃんとスタンダードに楽しめた。
注目の演出だが、こちらは期待していたほどではなかった。ちょっと中途半端なのだ。高く飛んだホームランボール、もといヘルメットをとるため、競って手を伸ばす観客とか、ボクシングのリングコールみたいな選手紹介とか、ときどき出てくれば楽しいんだけど、もっと大袈裟なやりかたでもいい気はする。BGMも、いっそのこと全部歌つきのロックだけにしてしまえばいいのに。
ただそういう部分はおまけとすれば、普通のサクセスストーリーの部分はまあ納得はいく出来。途中仲間になるチョーサーなんかがなかなか面白くて(こいつがリングコールを発明する)、見ていて飽きない。
中世ヨーロッパの貧乏な雰囲気も割と出ているし、槍試合(単純な競技だから少々マンネリ気味になるが)も迫力ある。
ちょっと残念なのは、ライバルだ。この人、いい顔をしているので登場したときから気に入っていたのだが、ストーリーが主人公のサクセスストーリーを追うあまりライバルの視点があまり語られない。この人が槍試合にどんな思いを持っているのかとか、その辺がわかるともっと面白かったと思う。