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遊星ゲームズ
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1970/01/01 09:00

七人の魔法使い
 読書

七人の魔法使い
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 野口絵美訳 徳間書店BFC

2004.1.17 てらしま

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 素直に『ハウルの動く城』の原作を読めという話もあったんだが、こっちの方がおもしろそうだったんである。
 ある日突然、家に「ゴロツキ」が居座ってしまう。そんなところから話は始まる。身体がでかくて乱暴者で、頭が小さいこの「ゴロツキ」だが、意外にいい奴かもしれなかったりして、なかなかかわいい。
 誰も知らなかったことだが、実はこの町は7人兄弟の魔法使いに支配されているのである。彼らはそれぞれにすごい力を持っていて、世界を征服したがっているのだが、それがなぜか、この町から一歩も出ることができない。その理由はどうやら、売れない作家である「父さん」の原稿のせいらしい。
 その原稿をめぐり、7人の魔法使いが次々と現れ、主人公の家族に災難をふりかける。魔法のせいでいろいろ大変なことが起こる、ドタバタコメディ。
 特に中盤以降の展開が実にびっくりで、かなり楽しかった。
 この作者の特徴らしいが、本当にそれぞれのキャラクターがいい。いつも宇宙船のことばかり考えている主人公の少年、その妹、声がすさまじいからつけられたあだ名で「スサマジー」、この二人を中心に、10数人の登場人物それぞれが、決して忘れられない魅力を持っている。こいつらがドタバタやってればそれでもうおもしろくなってしまうのだ。
 でもそれだけじゃあ、普通のよくできた作品。この本の突出した部分はやはり、「父さんの原稿にはなにかすごい力があるらしい」というあたりだろう。こういうメタフィクションぽい要素があると、なんか気になってしまう。
 魔法の力はかなり万能で、なんでもできてしまう。しかし文章の力はもっと強いのである。なにしろ小説の中なんだから。文章の力を持ち出すことで、小説は本当になんでもアリの世界になってしまうわけで、これはもうスーパーサイヤ人もびっくりのインフレーションを引き起こしてしまうわけである。
 インフレはやはり楽しい。しかしこれはたぶん書き手にとって危険というか、読者にとっては不安になる要素でもある。どこまでも話が拡大してしまっては、終わり方がなくなってしまうからだ。
 しかしこの本の場合、なんでもできる可能性を示しながら、それはそれとして、キャラクターたちの気ままな行動をしっかり描いていき、あくまで話は町と主人公の家族から外れない。そこがいい。
 いろいろとびっくりなことが起こって楽しいのだが、最後には児童書(?)らしく、ちゃんと主人公の成長にいきつく。あくまで変な世界の中で、かなり変な過程で成長を遂げてしまうことになるが、まあこんな話の中では納得力があるというもの。とてもおもしろかった。ダイアナ・ウィン・ジョーンズは他のも読んでみなきゃいけないな。


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1970/01/01 09:00

葉桜の季節に君を想うということ
 読書

葉桜の季節に君を想うということ
歌野晶午 文藝春秋

2004.1.25 てらしま

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 本格ミステリだのなんだのと一所懸命に謳われているが、それもネタのうちだと思う。なんのことはない、悪ふざけが大好きな新本格だった。
 例によってネタバレは書けないが、バカな話である。
 それにしても、本の帯にもどこにもあらすじが書いていないのはどういうことだろう、やっぱりある程度どんな話か、わかった方が消費者も買いやすいんじゃないのかなあと思いながら買ったわけだが、最後まで読んだら理由がわかった。あらすじを書くと嘘になってしまいそうなのだ。
 でもまあ書く。
 主人公は自称「なんでもやってやろう屋」。警備員やらパソコン教室の講師やら、いろいろなアルバイトをやっている。自己中心的で理屈っぽい、いま考えてみれば名探偵のパロディによくある性格だ。
 そんな主人公が、老人を相手にあくどい商売をしている「蓬莱倶楽部」なる会社の調査を始める。この会社、保険金殺人までやるひどい会社で、昔探偵事務所に勤めていたこともある主人公はやがて社会正義のために、社会の闇にのさばる悪に立ち向かっていく。
 その一方、地下鉄自殺から救い出したことがきっかけで知り合った女性との間に、プラトニックな恋愛が芽生えていくというような話もあったり、さすがにこの厚さだ。いろいろな話があるわけだが。
 文章は妙に下品だし、セリフがどこかおかしい。「~なのです」とか、そんな喋り方を真面目にやってしまう。このセリフからはジョージ秋山のマンガを思い出した。シロガネーゼたちは『ザ・ムーン』のケンネル星人みたいな話し方をする。この本の中では。
 この不自然さは一体、意図されたものなのかナチュラルにこうなのか、この作家の他の本を読んだことがない私にはわからなかった。しかし新人でもあるまいし、なにかがあるぞというような予感はあったけど。
 厚い本だが、読みやすい。これも新本格バカ小説の特徴の一つじゃないかと思う。まったく、なーにが本格ミステリだ。新本格が新しくなくなって、もはや本格にとってかわったということか。
 けっきょく、主人公の鼻につく性格も、全編にちりばめられた一見関係なさそうなエピソードの数々も、すべて計算ずくのものだった。たしかに、これだけ作りこむのはすごいし、裏切られる快感というものも読者の喜びの一つではあろうが、これは、まともな小説が目指すものとはかけ離れたカタルシスである。
 大きなギミック一発の、一発ネタ小説なのである。つまり。この本について「映画化は不可能」とかいう評を耳にしたことがあるが、……そういう意味かよ。
 まあでも、私はそういうのが嫌いではないので楽しんだ。このミス1位で、ずいぶん売れているようで、なんというか、こんなものが売れる国はまともな文化を育んでいないと思わないでもないのだが。


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1970/01/01 09:00

我が家のお稲荷さま
 読書

我が家のお稲荷さま
柴村仁 電撃文庫

2004.3.28 てらしま

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 まんま『うしおととら』だから悪の妖怪と戦う話かと思ったら違う。うしとらで、とらがたまに、現代の街を見てはしゃいでいた場面があったが、あっちの方を本題にした話という感じだ。
 戦う話だとどうしても主人公たちには特別な力があって、けっきょく他の妖怪よりずっと強いのだということになってしまうが、この話では違う。そのあたりがいいところなんだろう。
 代々続く巫女の家系なのだが、どうも最近その超能力が弱まってきているらしく、主人公の代にはとうとう、女子が産まれなかった。それでしかたがないので、先祖が封じた狐の封印を解いてボディガードにしよう、というのが第一章の話。
 この第一章では主人公の兄弟を狙う悪い妖怪が出てきたりして、狐はもちろんそれを首尾よく撃退するわけだが、驚いたのは、そこで本当に話が終わってしまったところだ。さらに強い黒幕の存在がほのめかされるでもなく、ただ単に、悪い妖怪を一匹退けた。それで終わってしまうのである。
 第一章で話が終わってしまったのだから、そのあとはもう、狐と一緒に街で暮らす、その様子を描くしかない。へーと思っていたら、ほんとにそのままずっと、だらだらと生活してやんの。
 大きな危機が訪れるでもなく、スラップスティックというかハートウォーミングというか、それ系の話が展開する。
 問題は、わたしがそれに気づかなかったことだ。
 やっぱり『うしおととら』だし、敵が出るの?とか、狐が妖力を駆使して戦うの?とかずっと考えていた。それが間違いだったのである。
 ずいぶんがんばって読んできたつもりなのだが、いまだにこういうのを読むと戸惑ってしまう。さすがに金賞受賞作品、おもしろいとは思うのだが。
 つまりこれは、キャラクターの動きを見るための作品なのである。なにか深いテーマが、ないとはいわない(まああるのだ)が、第一の目標はキャラクターを描き出すことなのであり、そのキャラクターを通じて宇宙の真理が解き明かされたりとか、そういうことではないのだ。
 こういう小説を読んでも抵抗を感じない人たちがいるんだろうなとか思いながら、いやたしかに、わたしの知人の中にもそういう読み方をできるだろう人たちがいるのだが、つまりそれは新しい小説の読み方であり描き方なのであって、わたしの方が時代遅れなのかもなあとか考えた。でもやっぱり、わたしには少し難しいのです。


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1970/01/01 09:00

マリア様がみてる チャオ ソレッラ!
 読書

マリア様がみてる チャオ ソレッラ!
今野緒雪 集英社コバルト文庫

2004.4.2 てらしま

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既刊の評
マリア様がみてるシリーズ
マリア様がみてる レイニーブルー
マリア様がみてる パラソルをさして
マリア様がみてる 子羊たちの休暇
マリア様がみてる 真夏の一ページ
マリア様がみてる 涼風さつさつ
マリア様がみてる レディ、GO!
マリア様がみてる バラエティギフト
 
 こういうシリーズを読んでいていいことは、定期的にページ更新の機会が与えられることだ。ずっと更新をさぼっていても、マリみての新刊が出れば読むし、書評も書けるのである。
 だが。今回ばかりは、本気で見なかったことにしようかと思った。
 前に、1巻を読んだ友人が「読み終わってもなにも残らなかった」と感想を述べていた。その感想は、まさにこの巻に与えられるべきものだ。
 修学旅行の話である。わたしのころは京都とか大阪とかそんなもんだったが、そこは今時の高校。それにそういえばお嬢さま学校だった。行き先はイタリアなのである。
 まあそういう話だ。あらすじがということではなく、ネタバレもクソもなく、これがすべて。
 イタリアに修学旅行にいったぜいと、いつもの前書きのあとにそれだけ書いてあった。
 あとがきによれば、取材にいったらしい。その旅行記の登場人物を変えて本にしたんだろう。
 もう読んだものが右目から左目に抜けていく感覚である。
 マリみてのシリーズを通して読むなら、この巻は飛ばしてもまったく支障がない。
 まあ、こういうのを書くのも簡単じゃないと思うわけではある。登場人物それぞれの存在と行動原理がすべて前提として存在し、とりあえず彼女たちがいるだけである程度(ある程度だ)はいいかと思わせることに成功しているから書ける話だ。しかも、その登場人物の性格に、1冊を通して違和感が一つもない。
 成功したシリーズの特権と思って目をつぶればいいのかもしれない。けっきょく読んでるし、次の巻も買うだろうわたしのような人間がなにをいっても空しいだけなのではある。
 そういえば、アニメが最終回を迎えた。最後までどこを面白がらせたいのかぜんぜんわからない、あえていえば作っただけのアニメだった。原作シリーズの最新刊を読んでアニメと同じ感想をもってしまったのでは、これはやるせない。
 一応あんなアニメでも見て原作を読もうと思う人があるかもしれない、そういう時期にだ。いや、人気がなくなることは問題ではない。でも、アニメ化をきっかけに、人気と共に作品の勢いも急降下してしまった作品を、我々はいくつも知っているのである。
 さすがにそろそろ妹の話を書く覚悟ができたはずと信じたいのだが、そのときにどうなるのか、もう不安を煽るような展開がずっと続いている。


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1970/01/01 09:00

サカナの天
 読書

サカナの天
今野緒雪 集英社コバルト文庫

2004.4.18 てらしま

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 更新したくなったので少し前に読んだものを。マリみての今野緒雪だが、なんとSFなのである。
 陸地がないことを除けばほぼ地球と同じ環境の星オーナ。超能力を持ったサカナたちが平和に暮らす惑星なのだが、そこに、なぜか一匹だけ人魚がいる。
 調査団の一員だった父親が原因不明の事故で死んだという主人公は、単身この水の惑星に向かい、人魚と出会い恋に落ちる、とまあそんなお話。
 中盤までの煽り方がかなりいけてて、「おお、SFしてるじゃないか」と思った。
 過去の調査団に起きた謎の事故というのがキーポイントになるわけだが、これが『ソラリスの陽のもとに』を思わせて、なかなかおもしろそうなのだ。
 というか本当にかなりソラリスっぽいのだが、元ネタがあるのかどうかは不明である。口をきく魚たちとそこに突然変異で生まれた人魚の惑星というのは、観念的すぎてわけわからないといわれそうなソラリスの風景を具体的な目に見えるかたちに描きなおしたものとわたしには思えたのだが。
 ともあれ、今野緒雪的は、『夢の宮~奇石の侍者~』のテンカ(本当は漢字だが、出ない)みたいな、聡明ではないが純真無垢な少女というキャラクターを描かせるととてもいい。この話の人魚もそういうキャラクターなのだ。
 ただやはり、終わり方がコバルト文庫であってSFじゃなかった。物語に登場するガジェットの数々になんらの説明もなされない、そのあたりにもSFとしては不満が残る。
 まあ世間一般的にはSF読みの方が異常なんだろうことにはうすうす気づいているし、目をつぶることには慣れているのだが、中盤までの描かれ方がここまでSFだとなあ。
 とまあ不満はあるのだが、でも。これでいいんである。
 なにしろコバルト文庫で、異例のアニメ化までした大人気の少女少女小説作家が、宇宙飛行士(訳すとロケットマン)が主人公のSFを書こうとしていた時期があった。この事実だけでも喜ばなければ。
 発行は1996年、SFへの風当たりがもはや常識となってしまっていた、そんな時代にだ。
 しかも書きっぷりをみるかぎり、これはまったく、環境が違えばこの人はかなりのSF作家になっていただろうと思わせるに充分なものがある。
 マリみてを読んだ人が『夢の宮』も読んだという話は、わたし以外では一例しか報告がないし、サカナの天が重刷されてふたたび読まれるなんてことはほぼありえないといっていいのだが、SFファンとしては可能性を信じなければならないと思う。
 それにやはり、マリみての作者でさえSFを書きたかったのだ。SFの可能性をまた信じようと思うこともできるじゃないか、うん。「マリみてのおもしろさは実はSFなんだよ」と強弁する理由に、ならないでもないかもしれないし。
 それにしても、今の今野緒雪が書く『サカナの天』が読みたいものである。やっぱあれか。こういうことはデュアル文庫にお願いか。


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